あなたなら、どの国・地域の病院に
かかりたいと思う?

医療・福祉
あなたなら、どの国・地域の病院にかかりたいと思う?

それぞれの国・地域には、さまざまな法律や制度があります。法律や制度は社会を安全かつ円滑に営むために必要なものですが、なかでも医療や福祉の制度は人々の幸せな暮らしに直結しています。世界の医療・福祉の制度を知ることは、興味深いばかりでなく、私たちの社会をよりよいものにするためにもきっと役立つはずです。

スペイン、ブラジルでは、病院が不足気味

まずは、皆さんのお住いの国・地域で、病院や薬局の数が足りているかを尋ねました。

「病院は数が足りていませんが、薬局の数は足りています」(スペイン)

「病院の数は足りていません。薬局は足りています」(ブラジル)

「病院の数は足りていますが、質まで保証されているところは少ないです。薬局も足りてはいるものの、もっとあってもよいと思います」(パキスタン)

「病院の数は、十分に足りていると感じます。救急病院についても、日本よりはるかにかかりやすく、料金も安いです。薬局の数も足りています」(台湾)

「病院の数は足りています。薬局も、本当にたくさんあります。薬局で処方箋を出してもらえるので、ちょっとした病気なら薬局に行くだけで済ませることも。漢方薬局を利用することもあります」(シンガポール)

薬局の数は、今回調査したすべての国・地域で「足りている」との回答が得られました。一方、病院の数は、スペイン、ブラジルで不足しているようです。

シンガポールの病院には、気軽に通えない…

お住いの国・地域の公的医療保険制度についても、聞いてみましょう。例年の調査同様、税金を財源とし、医療サービスの提供者は公的機関が中心であるAの「国営医療」モデル、社会保険を財源とし、医療サービスの提供者には公的機関と民間機関が混在するBの「社会保険」モデル、民間保険を財源とし、医療サービスも民間機関が中心となって行われるCの「市場」モデルに分類しました。

「国営医療」モデル、「社会保険」モデル、「市場」モデルに分類しました。

イギリス、スウェーデン、ノルウェーなどでも採用されているAの「国営医療」モデルに該当したのは、スペイン、カナダ、ブラジルです。

Bの「社会保険」モデルに今回該当したのは、台湾だけでした。Bの「社会保険」モデルは、日本、ドイツ、フランス、オランダ、中国、韓国などでも広く採用されています。

Cの「市場」モデルに該当したのは、アメリカです。

A、B、Cのいずれのモデルにも該当しない国・地域も2カ国ありました。

パキスタンでは、国民皆保険制度がないため、医療機関に医療費を前払いして、診療、手術などを受けることになります。一方で、医師の処方箋がなくても抗生物質を含むほとんどの医薬品やワクチンを薬局で安く購入できることもあり、診療を受けずに薬の服用だけで対処する人が多いそうです。

また、シンガポールでは、自分が現役世代に積み立てた年金を将来自分自身で受け取るCPF(Central Provident Fund:中央積立基金)という制度の中に、入院費、医療保険なども含まれています。しかしながら、この医療保険は、一般的な外来診療や処方箋の交付程度では利用できません。

お住いの国・地域の医療について、さらにくわしく説明してもらいました。

「公立と私立の病院があり、医療費を税金として徴収されているため、公立病院では医療費は無料です。ただし、公立病院の専門医にかかるには、ホームドクター(かかりつけ医)からの紹介が必要になります。バルセロナは住民が多い割には病院が少なく、専門医にかかるまでに数カ月は待たなければならないので、急いでいるときには不便です」(スペイン)

「わが家では、近所の保険適用される病院のお医者さんが、ホームドクターになっています。ホームドクターのメリットは、予防接種や病気などの来歴を把握してもらえること。デメリットは、人気のある医師の場合、新規の患者を取らなかったり、診療の予約がしにくかったりすることです。転勤によって、ホームドクターが振り替えられてしまうケースもあります」(アメリカ)

「カナダではファミリードクター制度(ホームドクターと同様の制度)を採用しているので、何かあったときには症状にかかわらず、まずそのドクターに受診します。自分や家族に合うファミリードクターを見つけるのには苦労しますが、ファミリードクターが見つからない場合でも、誰でも受診できるウォークインクリニックがいたるところにあるため、心配はありません。かかりつけの病院は予約制で待ち時間が短い一方、総合病院の緊急外来にかかる際には長時間待たされる覚悟が必要です」(カナダ)

「公立の医療機関では診療にも薬にもお金はかかりませんが、ときには予約をしてから3カ月以上待たされることも。診察が事務的で、的を射ていない場合もあります。私立病院でも的を射ていない診察や医師の都合で手術をされることが珍しくなく、信用がおけないため、3人以上の医師に意見を求めるのが常識といわれています」(ブラジル)

「病院にもかかわらず、衛生管理がきちんとされていないところもあり、安心できません。富裕層が利用するクリニックを紹介してもらう必要があります」(パキスタン)

「子どもが幼いと、救急病院にかかる機会も多いのですが、台湾の医療制度にはたいへん感謝しています。出産費用がとても安く、産後ケアの施設も整備されているので、充実した産前産後を過ごせました」(台湾)

「シンガポールの病院は世界的にも優秀だと思いますが、とにかく医療費が高額です。かかりつけという感じで気軽に通うことができません。地元の人は、それぞれの地域にある東洋医学の漢方医や漢方薬局を上手に利用しています。薬局でもある程度の薬を出してもらえるので、病院へ行くよりもそちらを利用するケースが多いです」(シンガポール)

介護保障がまだ整備されていないパキスタン

介護保障がまだ整備されていないパキスタン

医療制度だけでなく、福祉制度についても、皆さんに聞きました。まずは、介護保障に関してです。それぞれの国・地域の介護保障は、Aの「社会保険により行う」モデル、Bの「基礎的自治体が全住民を対象に、税財源により実施する社会サービスの一環として行う(以下、社会サービスの一環という)」モデル、Cの「その他」のモデルのうち、どれに当てはまるのでしょうか?

日本、フランス、ドイツ、韓国などが該当するAの「社会保険により行う」モデルを採用しているのは、今年取材した国ではカナダだけでした。

また、イタリア、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランドなどが該当するBの「社会サービスの一環」モデルは、今年取材した国の中ではスペインと台湾が採用しています。

それ以外の4カ国のうち、3カ国がCの「その他」のモデルを採用し、パキスタンでは保障制度が整備されていません。

医療保険制度同様、介護保障制度も国・地域によってかなり異なっていますが、年金の受給開始時期にも差はあるのでしょうか?

「67歳からです」(スペイン)

「ソーシャル・セキュリティー(アメリカの介護保障制度)を受けられるのは、早くても62歳を過ぎてからです。一般的に年金暮らしを始めるのは、65~67歳ぐらいからでしょうか」(アメリカ)

「以前は男性が60歳から、女性が55歳からでしたが、今、制度を移行している最中で、現在は男性が65歳から、女性が60歳からとなっています。ただし、小規模な農業、漁業の従事者や先住民などは、それよりも5年早く受け取れます」(ブラジル)

「基本的には、65歳からです。60歳からでも受け取り可能ですが、その場合には永久減額が適応されます。逆に、70歳まで待てば、永久増額の待遇が受けられます」(カナダ)

以前は介護保障の給付開始年齢が早かったブラジルでも、他国並みの水準に変わりつつあるようです。医学の技術の進歩とともに、元気な高齢者が増えていることもあり、給付開始年齢の先送りは世界的な傾向なのかもしれません。

カナダでは、年金だけでも生活していける?

皆さんがお住いの国・地域の高齢者の方々は、実際に元気に過ごされているのでしょうか? リタイア後の暮らしぶりがどのように映っているのか、語ってもらいましょう。

「暮らしぶりはさまざまです。持ち家が多いため、なんとか生活していけるのではないでしょうか。近年、年金受給者たちによる大きなデモがあり、年金の受給額がいくらか上昇しました」(スペイン)

「ソーシャル・セキュリティーは老後の生活費の4割しかカバーできない設計になっているので、やはり年金だけでは余裕がなさそうです」(アメリカ)

「私の義母、義父が、年金受給者です。二人とも、公立学校で教師をしていました。彼らやその友人たちは、皆さん、年金ライフを満喫しているように見受けられます。カナダの冬の寒さが厳しい1~2月には、フロリダやメキシコのリゾートでのんびり過ごしたり、クルーズで長旅に出たりしています。それ以外にも、趣味や友人との集まり、ボランティアや自治体の活動などで忙しく飛び回り、日々の生活も充実して見えます」(カナダ)

「幸せそうな人もいれば、生活が苦しそうな人もいます。今の70~80代の人々は比較的落ち着いて年金生活を送れているように見えますが、年金だけでは必ずしも贅沢な暮らしはできません。例えば、民間企業なら積み立てられる年金額の上限、公務員なら年金額を決定する最終的な給料の金額によって、年金生活のレベルは左右されます。ただ、年金額にかかわらず、現役時代に投資をしてお金に余裕があったり、仕事を続けていたり、何かしらのコミュニティーに接点を持っていたりする人は、幸せそうです」(ブラジル)

「そもそも、年金生活という概念がありません。子どもが多く、家族で働き、支え合っています」(パキスタン)

「私が住んでいるエリアの台湾人は比較的裕福で、外国人の介護ヘルパーを雇っているケースも多く、余裕が感じられます。朝の公園で体操、太極拳をする方々、午後の喫茶店でお茶を楽しむ方々など、アクティブな高齢者をたくさん目にします」(台湾)

「CPF(中央積立基金)があるため、老後に苦しそうな生活を送っている人を見かけたことはほとんどありません。シンガポールの進んでいる点のひとつだと思います」(シンガポール)

介護保障以外にも、世界の福祉制度事情をご紹介

医療、老後のほかにも、お住いの国・地域で見たり聞いたり、あるいはご自身で体験したりした福祉制度には、どんなものがありますか?

「家族手当、育児手当、児童手当はありません。失業給付は、6カ月働けば、2カ月分を受け取れます。長く働けばしばらくは失業保険で生活できるので、働かなくなる人が多いようです」(スペイン)

「世帯収入が一定金額に満たない家庭向けに、学校に行っている子どもなどが資金援助を受けられる、ボウサ・ファミリアというシステムがあります」(ブラジル)

「私自身が、児童手当と失業給付を受けました。失業保険手当については、起業クラスやワークショップなどにも無料で参加することができ、とても助かったのを覚えています」(カナダ)

「駐在員には適応されませんが、台湾人には育児(保育費)手当などもあると聞いています」(台湾)

医療・福祉の制度は、人々が安心して暮らしていくために欠かせないもの。それぞれの国・地域の事情や、そこに住む人々の要望などによってさまざまな違いはありますが、できるだけ多くの人の幸せにつながる形で発展させていってほしいですね。移住などを考える際には、その国・地域の医療・福祉の制度が自分に合うかどうかについても、検討しておくとよいかもしれません。

※ 本記事は各国または地域に在住のガイドおよび在住者個人の見解であり、掲載される情報の内容を保証するものではありません。
掲載される情報は、ガイドおよび在住者の居住する国や地域の中でも居住地や関係する自治体等によって異なる場合があります。

※ 掲載される情報は2019年11月時点のものです。

<取材協力>
スペイン(バルセロナ)秦 真紀子、アメリカ(ポートランド)東 リカ、カナダ(バンクーバー)ハインリクス 可奈子、ブラジル(サンパウロ)大浦 智子、パキスタン(イスラマバード)篠原 尚子、台湾(台北)酒井 裕子、シンガポール(シンガポール)稲嶺 恭子

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