病人には厳しい?
けれど、高齢者にはやさしい国って?

医療・福祉
病人には厳しい? けれど、高齢者にはやさしい国って?

国や地域に固有の歴史があり、独特の風土があるように、医療や福祉の制度もそれぞれ異なっています。「こんな制度があるなんて、うらやましい!」、「この国は、自分にはちょっと暮らしにくそう……」など、受け止め方もきっと十人十色でしょう。人々の暮らしを支える医療・福祉の制度について、各国からのレポートをお届けします。

医者が足りないノルウェー、病院が足りない中国

まずは、病院、薬局の数が十分に足りているかを、それぞれの国(地域)に住んでいる皆さんに聞いてみました。

「ノルウェーでは、医者の数が足りていません。薬局は、十分に足りています」(ノルウェー)

「どちらも、十分に足りています」(ドバイ)

「病院は絶対数が不足しているために、常に人だかり。特に子どもは小児科病院でしか診てもらえないケースが多いので、ひどい有様です。薬屋はあちこちにあり、ほぼ24時間営業で、仮に閉まっていてもベルと押すと店を開けてくれます」(中国)

「どちらも足りています」(韓国)

薬局の数は、すべての国・地域で足りています。一方、病院については、中国で足りていません。また、ノルウェーでは、施設の数はそれなりにあっても、医者が足りておらず、利用しにくい状況が生じているようです。

日本人には向いていない?ノルウェーの病院

次は、住んでいる地域の公的医療保険について、Aの「国営医療」モデル、Bの「社会保険」モデル、Cの「市場」モデルのいずれに該当するかを聞きました。

ノルウェーは、税金を財源とし、医療サービスの提供者は公的機関が中心であるAの「国営医療」モデル。イギリス、カナダ、スウェーデンなどでも採用されています。

中国と韓国は、日本、ドイツ、フランス、オランダなどと同様、社会保険を財源とし、医療サービスの提供者には公的機関と民間機関が混在するBの「社会保険」モデルです。

また、ドバイでは、ローカル(自国人)と外国人とで異なっており、ローカルはAの「国営医療」モデル、外国人は民間保険を財源とし、医療サービスも民間機関が中心となって行われるCの「市場」モデルでした。

住んでいる地域の公的医療保険について、Aの「国営医療」モデル、Bの「社会保険」モデル、Cの「市場」モデルのいずれに該当するか

それぞれの国・地域の医療に関して、さらにくわしく説明してもらいましょう。

「ノルウェーでは、かかりつけ医がひとりつきます。日本でのように、自分で行きたいときに複数の病院を“ハシゴ”することはできません。医療費が無料と思われがちな北欧にあるノルウェーですが、毎回約1,980~3,300円(150~250ノルウェー・クローネ)ほどかかる診察費は自己負担で、約 29,830円(2,258ノルウェー・クローネ)を超えた場合に多くの医療費が年内は無料となります。この自己負担最高額は、毎年値上がりする傾向にあります。

日本と違って、風邪“ごとき”で病院に行っても、相手にはしてもらえません。風邪は家で寝ていれば治るもので、病院は大きな病気のときにお世話になる場所だと、考えられているからです。待ち時間も長く、予約から診察までに1~2週間かかることもよくあります。どうしてもすぐに診療を受けたいのなら、有料の私立クリニックなどに足を運ぶ方がよいです。また、ノルウェーでは、病院はビジネスではないため、薬も積極的に処方してくれません。日本の医療サービスに慣れている人は、『ちゃんと向き合ってもらえていない』と感じる可能性もあります」(ノルウェー)

日本人は病院を利用しすぎかもしれませんが、ノルウェーの医療制度もこれはこれでやっぱり不便な気が……。

「日本の病院と同じようなクリニックはありますが、専門外来に直接行って診療を受けるのが一般的です。そのほかでは、薬局の店員さんが非常にプロフェッショナルで、さまざまな面でとても頼りになります」(ドバイ)

「今年中国で大ヒットした映画『我不是薬神(Dying to Survive)』を見てもわかるとおり、中国の医療制度はまだまだ未熟です。ただ、ビジネスマンは大体会社の医療保険に加入しており、その医療保険で指定された病院が主なかかりつけとなります。もっとも、長蛇の列ができるなど、医者に会うまでがかなり大変なので、富裕層は国際クリニックを利用することが少なくありません。一方、一般庶民は、太極拳をして体を動かしたり、マッサージや鍼灸、漢方薬といった中医(中国を中心とする東アジアで受け継がれてきた伝統医学)を利用したりして、病気に備えています」(中国)

ヨーロッパやオセアニアではかかりつけ医が初診を行い、ケースに応じて専門医を紹介する、いわゆる「ホームドクター制」が主流で、ノルウェーもやはりそのようです。ほかの国では、ホームドクター制は採用されていないのでしょうか?

「中国では“ホームドクター”はまだまだなじみがありませんが、2016年に中華人民共和国国家衛生健康委員会がホームドクター制度の推進を求める『衛生計生委關於印發推進家庭医生簽約服務指導意見的通知』を配布したこともあり、今後はホームドクター制度の発展が予想されています」(中国)

「韓国ではホームドクター制度は採用されていないので、病院や医師の選択は自由です。韓国の開業医(個人クリニック)には、院長が2~5人いることも珍しくありません。窓口で「××院長でお願いします」と伝えて、患者が医師を選択することもできます。各医師の勤務時間、曜日なども公開されています。私自身もそうですが、病気ごとにかかる病院や先生を決めている人が多いようです。一度定期健診やがん検診などを受けると、 次の検診時期が近づいてきた際にメールで通知を送ってくれる病院も少なくありません」(韓国)

日本も含め、ホームドクター制度は、どうやらアジアの国々ではまだ根付いていないよう。ホームドクター制度についてさらにくわしく知るために、ホームドクター制度を採用しているイタリアからのレポートをお届けしましょう。

具合が悪い?イタリアでは、まずはホームドクターへ!

「カンターレ、マンジャーレ、アモーレ(歌って、食べて、そして愛して)」で知られるイタリア。陽気に楽しく、人生を謳歌する天才のようなイタリア人たちですが、体調不良、歯痛、腹痛、ケガ、病気になることだってもちろんあります。そんな時は、どうするか。専門の病院を受診する前に、“かかりつけのお医者さん”、いわゆるホームドクターに相談するのが一般的です。

イタリアの医療制度には国民健康保険サービス(SSN)による保険診療と全額自己負担の非保険診療(自由診療)があり、ホームドクターは前者。保険診療の制度に組み込まれています。SSNに加入したら、地域のホームドクターリストから、評判などを聞いて“マイホームドクター”を選びます。会ってみて、いまひとつ気が合わないなどの不具合があれば、変更も可能。SSN加入者には、ひとりにひとり、もれなくホームドクターがついてくる仕組みです。

ホームドクターは、病気・ケガ全般の初診から生活習慣のアドバイス、電話相談までしてくれるうえ、何度でも無料で受診できます。風邪などの治療が簡易な病気であれば症状に応じた薬の処方箋を出したり、検査や専門医受診が必要と判断すれば“予約リクエスト”を作成したりします。ユニバーサルケアが実現しているイタリアでは、これら一切の費用はSSNが負担するため、加入者が支払うことはありません。

また、ホームドクターの指示、つまり処方箋や予約リクエストを持って、薬局で購入したり専門医の予約を取って検査・受診したりした場合の費用も、無料もしくは低額で済みます。

なんでも相談できて、しかも無料とは、なんとも心強い限りではありますが、保険診療を希望するなら、まずホームドクターを受診するのが決まりなので、例えば日本でのように、「歯が痛い……。もしかしたら、虫歯かも?」と気軽に街の歯科医を直接受診し、「保険診療の範囲で診てもらうこと」はできません。ホームドクターの予約リクエストがなければ、単なる虫歯チェックだけでも、全額自己負担の自由診療になります。

さらに、ホームドクターの診断後に指示される医療機関は、主に公立病院や保険診療可の病院が対象となるため、自分で病院や専門医を自由に選ぶことも基本的にはできません(強力なコネがある場合を除く)。そうした施設は常に混雑しており、順番待ちも長く、手続きも煩雑。やっと取れた予約は数カ月先!?なんてことも……。

時間や手続きのシンプルさを優先し、SSNに加入していても自由診療を選ぶ人が多いのも実情です。眼科、皮膚科、産婦人科、歯科医などなど、各専門医による外来中心の完全予約制のプライベートクリニックや私立病院は街の至るところにありますが、日本のように大きく看板などが出ていないので、口コミや友人・知人の紹介がメイン。ホームドクターが“腕の良い”ドクター仲間を紹介してくれることもあります。

1回の診療費は、約15,430~18,000円(120〜140ユーロ)程度。歯科医の場合は、初診約10,290円(80ユーロ)、1本あたり約19,290~36,010円(150〜280ユーロ)などとなかなかの高額ですが、信頼できる医師に出会えれば的確な診断をスピーディーに受けられるので、それなりの価値を感じることはできます(※金額は筆者の経験値によるもの)。

ホームドクターはいても、何を優先するかは本人次第。無料で3カ月待つか、数十万円払ってでも明日診てもらうか。保険診療・非保険診療の選択は、患者自身に委ねられているのです。

ちなみに、イタリアの医療サービスのクオリティは先進西欧諸国と比較しても遜色なく、むしろ世界的な評価も高く、毎年発表される「HAQ(ヘルスケア・アクセス・アンド・クオリティ)インデックス」によれば、イタリアは世界第9位(日本は第12位)にランキングされています。

外国人が多数派のドバイでは、介護保障はナシ

医療制度の次は、それぞれの国、地域の老後にかかわる福祉制度についても尋ねました。介護保障のタイプは、Aの「社会保険により行う」モデル、Bの「基礎的自治体が全住民を対象に、税財源により実施する社会サービスの一環として行う(以下、社会サービスの一環という)」モデル、Cの「その他」のモデルのいずれに該当するのでしょうか?

昨年は日本、フランス、ドイツなどが該当したAの「社会保険により行う」モデルを採用しているのは、今年取材した国では韓国だけでした。

また、イタリア、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランドなどと同様のBの「社会サービスの一環」モデルを採用している国も、今年取材した国ではノルウェーのみ。

人口の約9割を外国人が占め、介護保障のないドバイ、地域ごとの取り組みもあるものの、家庭で子どもが負担するケースが一般的な中国が、Cの「その他」のモデルに該当しました。

医療制度、福祉制度とも国や地域によってバラバラですが、年金の受給開始時期についてはどうでしょう?

「生年によって変わりますが、1963年以降に生まれた場合は62歳です」(ノルウェー)

「女性は50歳、男性は55歳からです」(中国)

「1969年以降生まれ満65歳から、1965~1968年生まれ64歳から、1961~1964年生まれ63歳から、1957~1960年生まれ62歳から、1953年~1956年生まれ61歳から、1952年以前生まれ60歳から……となっています」(韓国)

ここでも、それぞれの国、地域の特徴が表れました。中国での受給開始年齢が特に早いのは、やはり労働者に手厚いのが建前の社会主義国家だからでしょうか。生年で小刻みに受給開始年齢を変更している韓国では、日本同様に少子高齢化が進んでおり、財源確保の厳しさが伝わってきます。

年金頼みでは老後は厳しそうな東アジア諸国

お住いの地域の年金生活者の暮らしぶりについても聞いてみました。あくまでも皆さんの目から見た印象ですが、かなり両極端な回答が寄せられることに……。

「幸せそうです。普通レベル、貧しかったレベルの人なら、安心してお年寄りになれると思います。ただ、お金持ちでも、その分高級な老人ホームに入れるわけではないので、お金持ちにとってベストとは限りません。また、北欧には福祉制度にあこがれて移民や難民が多く入ってこようとする傾向がありますが、必ずしも納税者になるわけではなく、今の若者は今の高齢者と同じぐらい良い年金生活は送れないだろうともいわれています」(ノルウェー)

「ローカルに対しての国からの補助はとても手厚いと聞いています」(ドバイ)

「人によって、差が大きいです。病院、学校、大手企業の退職者はゆとりのある生活を送っていますが、年金が少なく、高齢でも働いていたり、子ども頼みだったりする人も少なくありません」(中国)

「市や民間ボランティア団体が生活困窮者を対象に実施している給食支援日には、年金世代の高齢者の姿をしばしば見かけます。預貯金、資産などがある人はいくらか余裕がありそうですが、物価も上昇傾向にあり、年金頼みでは暮らしに余裕があるとは思えません」(韓国)

貧しい人や平均的な経済力の人にはありがたいノルウェー、自国民なら心配なさそうなドバイ、余裕のある生活を送るなら自己資産が欠かせない中国、韓国と、老後の暮らしぶりにもそれぞれの国や地域の特徴が表れています。

わが日本も含め、東アジアの国々では、年金だけに頼って暮らしていくのは厳しいのかもしれません。

医療、老後のほかにも!世界の福祉制度のあれこれ

最後は、医療、老後に加え、それ以外の福祉制度についても聞いてみましょう。

「高齢者のケアの責任は自治体と政治家にあるとされており、子どもが親の老後の面倒をみる必要がないので、家族など、特定の個人にプレッシャーが集中してかからないシステムは良いと思います」(ノルウェー)

「国や地方自治体の代わりを民間が果たしている面があります。会社によっては、子供の学費や家賃、車などを支給してくれるところも少なくありません」(ドバイ)

「妊娠中は解雇できないなど、労働者を守る法律が厳格なため、育児保障や失業保険は充実しています。児童手当や生活保護などの制度は確立していません」(中国)

「わが家で実際に利用中の制度についてお話しします。未就学児(84カ月未満)を自宅で世話する場合、養育手当て(児童手当て)として、月に約10,000円(10万大韓民国ウォン)程度の補助金が支払われます。幼稚園やオリニチプという施設に通わせる場合は、自宅で世話する際の補助金と同額が、学費補助として支給されます。ちなみに、養育手当て(児童手当て)は、子どもが24カ月未満なら月に約15,000円(15万大韓民国ウォン)、12カ月未満なら約20,000円(20万大韓民国ウォン)となっています」(韓国)

人々が幸せに暮らすための医療・福祉制度ですが、それも国や地域によってさまざまであることがわかります。やむをえない事情もあるかもしれませんが、そもそも一口に「幸せ」といっても、多様な形があるのが当たり前です。自分のイメージする「幸せ」と、その国や地域で求められている「幸せ」が重なり合うなら、そこに住んでみてもいいかもしれませんね!

※ 本記事は各国または地域に在住のガイドおよび在住者個人の見解であり、掲載される情報の内容を保証するものではありません。
掲載される情報は、ガイドおよび在住者の居住する国や地域の中でも居住地や関係する自治体等によって異なる場合があります。

※ 掲載される情報は2018年12月時点のものです。

※ 為替レートは2018年11月27日時点のものです。

<取材協力>
ノルウェー(オスロ)鐙 麻樹、アラブ首長国連邦(ドバイ)西田 麻紀、中国(北京)鈴木 晶子、韓国(大邸)松田 カノン、イタリア(パレルモ)デノーラ 砂和子

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