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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

不動産売買契約で起こり得るトラブルに関してQ&A形式で解説します。

危険負担 契約締結後の建物滅失

Q
2023年5月、中古の別荘を購入するため、売主Aとの間で、建物売買契約を結び、手付金を支払いました。ところが、建物引渡しの直前の集中豪雨により、大規模な土砂災害が発生し、別荘が滅失してしまいました。別荘の売買契約はどうなるのでしょうか。私は契約通りに売買代金を売主Aに支払わなければならないのでしょうか。
A

 あなたは、集中豪雨により本件建物が滅失し、建物引渡しが不能となったことを理由として、売買代金の支払いを拒むこと、また、売買契約を解除し、手付金の返還を求めることが出来ます。

1 危険負担の改正

 建物売買契約により、売主は買主に対して建物を引渡す義務を、買主は売主に売買代金を支払う義務を負担します。しかし、建物売買契約の締結後、買主に建物を引渡す前に、台風等の自然災害によって建物が滅失した場合、売主の建物の引渡し義務の履行は不可能となります(履行不能)。このような売主・買主双方に帰責性のない自然災害等の事由によって売主の建物の引渡し義務が履行不能となった場合には、買主は売主に対する売買代金支払い義務を拒むことができる、また、売買契約を解除することができるとの危険負担に関する法改正が行われました。この法改正は、2020年4月1日から施行され、施行日以降に締結された売買契約に適用されています。

改正前民法の危険負担

 改正前民法は、特定物売買契約の売主の特定物の引渡債務(所有権移転義務)が履行不能により消滅した場合にも、買主(引渡債務の債権者)の売主に対する代金支払債務は存続するとの危険負担の債権者主義がとられていました(改正前民法534条1項)。しかし、この危険負担の債権者主義は、買主に一方的に酷な結果となり、取引の一般常識とも乖離しているため、不動産取引の実務では、特約により、「自然災害等によって売主の建物引渡し義務が履行不能となった場合には、買主の代金支払い義務は消滅する」旨の規定を設けていました。

履行拒否権

 民法改正では、危険負担の債権者主義の規定を削除し、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することが出来なくなったときは、債権者は、反対給付を拒むことができる」とし、債権者に反対給付の履行拒否権を付与する規定が設けられました(民法536条1項)。これにより、売買契約の買主(債権者)は、売主の建物引渡し債務の履行不能を理由として、売買代金の支払いを拒むことが出来ることになりました。

契約解除

 また、改正前民法では、債権者(買主)が履行不能による契約解除を行う場合にも債務者(売主)の帰責性が必要とされてきました。そのため、債務者(売主)に帰責性がない自然災害などによる履行不能の場合の契約解除に問題がありました。民法改正により、履行不能による契約解除には、債務者(売主)の帰責性の要件が不要とされました(民法542条1項)。これにより、買主(債権者)は、自然災害による売主(債務者)に帰責性がない履行不能の場合にも売買契約を解除することが出来ます。

2 危険負担に関する条項の確認

 不動産売買は、売買契約締結後、不動産の引渡しまでに相当の期間があることが少なくありません。近年の異常気象に鑑みると引渡しまでの間に大規模地震や集中豪雨、土砂災害等の自然災害の発生により、売買の目的物である土地・建物に滅失、倒壊等の危険が生じる可能性は従前より高まっているといえるでしょう。
 上記の通り、民法改正により、危険負担の問題について、債権者主義の規定が削除され、買主は代金支払い義務の履行を拒否し、売買契約を解除することができるようになりました。但し、これらの民法上の規定も当事者間の合意により、修正することもできるため、自分の締結する売買契約の危険負担の問題がどのように定められているのか、再度確認する必要があります。