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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

不動産売買契約で起こり得るトラブルに関してQ&A形式で解説します。

不動産売買契約の条項

Q
不動産売買契約書

不動産売買契約書の条項には、どの様な事項が記載されていますか。

A

 売主と買主は不動産売買を行う際に、約束した内容を不動産売買契約書の条項に記載します。一般的な契約条項は以下のとおりです。

(1)

当事者(売主・買主)の表記
契約書の末尾に当事者が署名(記名)押印します。なお、媒介業者が関与する場合には、宅地建物取引士の記名、及び、媒介業者の記名・押印がされます。

(2)

目的物(不動産)の表記
契約書の冒頭の一覧表、又は、末尾の物件目録に登記簿の記載事項を中心に目的物(不動産)の特定に必要な事項が記載されます。

(3)

売買合意の表記
契約書の本文の中に、「売主が不動産を売渡し買主はこれを買い受ける」との記載がされ、又、「売主の不動産の所有権移転、及び、所有権移転登記義務(改正法条項にも明記)、並びに、買主の代金支払い義務」が記載されます。
なお、「売買代金、及び、代金支払時期」は、冒頭の一覧表に記載されることが多くみられます。

(4)

売買契約に問題が生じた場合の措置の表記
契約書の本文の中に、「契約の解除(手付解除、ローン解除、債務不履行解除)」、「危険の移転」、「違約金や損害賠償」に関する条項、その他の「特約条項」などが記載されます。

(5)

その他の事項
公租公課の負担、契約費用の負担、その他の事項が記載されます。

Q
手付金

不動産の売買契約に際し、手付金として金100万円を支払うことになっています。手付金とは、どのような金銭なのでしょうか。申込金や内金とはどのような違いがあるのでしょうか。

A

1 手付金
 手付金とは、売買契約締結の際に、当事者の一方から、相手方に対して交付される金銭その他有価証券を言います。手付金の機能には、(1)証約手付、(2)解約手付、(3)違約手付の3つの性質があるといわれています。

(1)

証約手付
手付には、契約締結の証拠となる機能があります。この働きをする手付を「証約手付」といいます。

(2)

解約手付
手付には、契約を一方的に解除できる機能があります。この働きをする手付を「解約手付」といいます。「解約手付」は、契約の当事者に債務不履行がなくとも、手付を交付した側は、手付の返還請求権を放棄することにより、又、交付を受けた側は、手付の倍額(交付された手付金の返還及び同額の金員交付)を支払うことにより一方的に契約を解除することができます。
売買契約において手付が交付された場合には、特別の定めがない限り、「解約手付」の趣旨で交付されたものと推定されます。
また、宅建業者が売主となる不動産売買契約においては、手付金が交付された場合には、「解約手付」の性格を持つとみなされ、更に、売買代金額の10分の2を超える手付金を受領することは禁止されています。

(3)

違約手付
手付には、売買契約の違約者に対する違約金とする機能もあります。この働きの手付を「違約手付」といいます。

(4)

「預り金」の性質
手付金は、「預り金」であり売買代金の一部支払い金ではありません。一般的な売買契約では売買代金の支払い時に手付金を売買代金の一部に充当します。従って、充当前の手付金は「預り金」ですので、売主は、手付金が売買代金に充当されるまでは「預り金」として保管する義務があります。

2 内金
 内金とは、買主が売買契約締結後に売買代金の一部支払いの趣旨で支払う金銭です。初回金、中間金などと呼びます。不動産売買の場合、契約締結から代金決済日までに期間がある場合に、内金(中間金など)という形で代金の一部支払いがされます。

3 契約申込金(申込証拠金)
 契約申込金(申込証拠金)とは、不動産販売の応募に際し、申込者が殺到する状況の場合などに、申込者が購入申込み等の際に交付する少額の金銭です。申込者の購入の意向が真摯であることを示し、優先的に購入交渉を行う権利を確保する目的で交付される金銭です。従って、契約申込金(申込証拠金)は、「預かり金」ですので、申込者が購入の検討を行った結果、購入の意向を撤回する場合には、契約申込金の返還を求めることが出来ます。

4 売買契約では、手付金の他にも、様々な金銭の授受が行われる場合があります。内金や手付金との名目で交付されていても、名目と交付目的・実態が異なる場合もあります。どのような目的で金銭が交付され、交付によってどのような効果(権利・義務)が生じるのか、どのような場合に返還請求が可能か等を事前に確認しておく必要があります。

Q
手付解除

不動産売買契約の手付解除について詳しく教えてください

A

 不動産売買契約に際し「手付」が授受された場合、当事者は「相手方」が「契約の履行に着手」する前であれば、買主は手付の返還請求を放棄し、売主は手付の倍額を償還することで売買契約を一方的に解除することができます(民法557条1項)。なお、売買契約に手付解除の行使期限がある場合には、その期限内に解除を行う必要があります。一般的な不動産売買契約では、契約後、様々な事情で売買契約を中止せざる得ない場合に備えて手付解除権を付与しています。

1 手付解除権の行使

 買主の手付解除は、売主が「売買契約の履行に着手」する前に、手付金の返還請求を放棄して契約を解除する意思を表示して行い、売主の手付解除は、買主が「売買契約の履行に着手」する前に、手付金の倍額を「現実に提供」して解除の意思表示を行う必要があります。なお「現実の提供」とは買主が受領しようとすれば受領できる状態にすることです。

2 「履行に着手」とは

 「履行に着手」とは、「客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし、または、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」と考えられています。「履行の着手」に当たるか否かの判断は、公平の観点から、当該行為の態様・債務の内容・履行期の定められた趣旨・目的等諸般の事情を総合的に考慮して行います。
 売主が買主のために土地の所有権移転登記請求権を保全する仮登記した場合や、土地の抵当権を抹消するとの約定に基づいて実際に金融機関に返済を行って抵当権を抹消した場合などは、履行行為の一部または履行の提供に欠くことのできない前提行為として「履行の着手」があったと判断されるでしょう。

3 手付解除期限

 手付に関する民法の規定(557条1項)は、任意規定であり、当事者間で別途の条項を設けることもできます。不動産売買契約では、民法上の「履行に着手」するまでとは別に手付解除の期限を設ける場合があります。当事者間で、別途手付解除の期限を設けた場合には、その特約が優先されます。
 但し、宅地建物取引業者が売主で一般の方が買主の不動産売買契約では、この手付解除の期限の特約が民法の定める「履行に着手」する時期よりも早く到来する場合には、無効となります。宅地建物取引業法では民法の規定よりも買主に不利となる特約は禁止されているからです。

4 原状回復義務

 「手付解除」が行われた場合、その不動産売買契約は解消され、売主・買主の相互に売買契約の「原状回復義務」が生じます。売主が売買代金の一部を受領していた場合には無利息で返還する等の原状回復を行う必要があります。原状回復の内容を相互に確認し、誠実に履行する目的で「契約解除の確認書」等を作成することをお勧めします。

Q
ローン解除

銀行から融資を受けて不動産を購入する予定です。もし、銀行から融資が受けられなかった場合には、どのように対応すればよいでしょうか。

A

1 「ローン特約付売買契約」
 不動産売買契約は売買金額が高額なため、買主が金融機関から売買代金の融資を受けることを条件とする「ローン特約付売買契約」が見られます。「ローン特約付売買契約」では、買主の金融機関からの融資が不成立となった場合、買主は、違約金や損害賠償等の責任を負わずに、無条件で売買契約を解消できる「ローン解除」条項を定めています。

2 「ローン解除」条項
 「ローン解除」条項には、融資不成立となった場合に、自動的に売買契約が解除される当然失効型と、買主が融資不成立を理由としてローン解除権を行使する解除権行使型があります。

(1)

当然失効型
当然失効型の「ローン解除」条項では、通常、「融資不成立の場合、売買契約は当然に終了する」旨の記載がされます。融資見込み時期までに融資の承認が未定の場合にも「融資不成立」の場合として売買契約は解除されます。

(2)

解除権行使型
解除権行使型の「ローン解除」条項では、通常「融資が不成立の場合、買主は売主に対して無条件で売買契約を解除できる」旨の記載と共に、「融資の見込み時期」や「ローン解除権の行使期間」が定められます。融資が不成立となった場合、買主は、定められた「ローン解除権の行使期間」内に、売主に対して、「融資不成立を理由として売買契約を解除する」旨の通知を行う必要があります。

3 融資不成立とは
 「ローン解除」条項における「融資不成立」とは、金融機関から融資が受けられない場合の他に、融資見込み時期までに融資の承認が未定の場合も含まれます。一方、「ローン特約付売買契約」の買主は、融資成立に向けた真摯な努力をする義務があり、売買契約書にはその旨が条項として記載されています。したがって、買主が、融資の申し込みを誠実に行わない等、故意に融資が受けられない状態を作り、その結果、融資不成立となった場合には、売買契約違反であり、「ローン解除」条項における「融資不成立」とは認められません。

4 「ローン特約付売買契約」では「融資見込み時期」を定め、金融機関からの融資の可否を早期に判断し、解除の意思を確定し「ローン解除権の行使期間」内に売主に解除の意思表示が到達するように注意して下さい。なお、媒介業者が買主の解除の意思表示を売主に伝える場合にも、同期間内に到達するようにしなければなりません。