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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

本コンテンツは、不動産売買契約における基本的事項を述べたものであり、実際に不動産の売買契約を締結される場合には、売買契約の対象となる不動産の特質や売主・買主のニーズなどに応じて、契約内容についての特別な考慮等が必要になることがあります。また、本コンテンツの内容は、平成27年8月31日現在の法律に基づき作成されております。
不動産の売買契約に関してお役に立つ法律情報を、Q&A形式で解説しています。

危険負担

Q
建築中の分譲マンションの売買契約を締結しましたが、完成引渡の直前に、大規模な地震が発生し、マンションの随所に、き裂や損傷が発生しました。売買契約は、どうなるのでしょうか?
A

 マンション売買契約の締結後、売主が買主にマンションの引渡(所有権移転、引渡)をする前に、売主や買主の責めによらない大規模な地震(自然災害)の発生により、マンションが、き裂や損傷を受けた場合、マンション売買契約をどうすべきかの問題が生じます。

 大別すると、売主は、き裂や損傷を受けたマンションを売主の負担と責任で修復して、買主にマンションを引渡し、買主から約定の売買代金の支払いを受けるか、または、き裂や損傷を受けたままの状態のマンションを買主に引渡し、買主から約定の売買代金の支払いを受けることが考えられます。

 前者の場合には、「売主」(マンションの引渡の「債務者」)が、大規模な地震(自然災害)の発生によるマンションのき裂や損傷のリスク(危険)を負担したことになり、後者の場合には、「買主」(マンション引渡を求める「債権者」)がリスク(危険)を負担したことになります。こうしたリスク(危険)の負担を「危険負担」と言います。

 この危険負担の前者の考え方を「債務者主義」、後者の考え方を「債権者主義」といいます。

 民法は、「不動産(「特定物」)の売買契約」の場合、前記のような自然災害によるマンションンのき裂や損傷のリスク(危険)は、原則として「買主」(マンション引渡を求める「債権者」)が負担すると定めています(民法534条)。

 しかし、不動産売買契約では、「危険負担」を「買主」に負担させる「債権者主義」の考え方は、取引の実情に合わないとして、「危険負担」を売主が負うとする「債務者主義」の「合意」をしているのが一般的です。

 この「合意」は、「引渡し前」の不動産の「実質的な支配権(所有権及び管理権)」が売主にあり、「危険」も売主が負担することが妥当との考え方に基づくものです。

Q
危険負担について詳しく教えてください。
A

 マンション売買契約では「売主」は、「買主」に対し「マンションの引渡(所有権移転、所有権移転登記、並びに、引渡)」の義務を負担すると共に、「買主」に対する「売買代金請求権」を取得します。一方、「買主」は、「売主」から「マンションの引渡」を受ける権利を取得すると共に、売主に「売買代金を支払う」義務を負担します。この「売主」と「買主」の権利義務は、互いに「等価値」、かつ、「対価関係」にあります。この関係を「有償双務関係」といいますが、この「有償双務関係」が保たれたまま売買契約の履行が完了すると契約の円満な終了となります。

 「マンションの引渡」の前に、自然災害により、マンションにき裂や損傷が生じた場合、マンションの価値が減少し、このままの状態でマンションの引渡と売買代金の支払いを行うと買主に損害が生じます。一方、売主が損傷したマンションを修復して引渡を行い、売買代金の支払を受けると売主に損害が生じます。

 いずれの場合も、「有償双務関係」が崩れて、他方に損害が生じ、紛争の要因となります。そこで、この紛争を回避するために「危険負担」の合意を行う必要があるのです。

 民法は、原則として、特定物売買契約の「危険負担」の「債権者主義」を採用し、その「危険」を「買主」(引渡請求権者=債権者)が負担すると定めています(民法534条)(【Q 建築中の分譲マンションの売買契約を締結しましたが、完成引渡の直前に、大規模な地震が発生し、マンションの随所に、き裂や損傷が発生しました。売買契約は、どうなるのでしょうか?】参照)。しかし、この考え方は、不動産売買の取引実情に合わないため、一般的な不動産の売買契約では、そうした「危険」を「売主」が負担する特約を行っています(債務者主義)。

 たとえば、次のような合意です。

 「マンションの引渡前に、そのマンションが自然災害等の不可抗力により、損傷、または、毀損した場合、売主は、その責任と負担においてマンションを修復し、買主に引渡を行うものとする。なお、マンションの修復の工事のため、マンションの引渡の時期が引渡の期日より遅れた場合にも買主は異議を述べないものとする。さらに、マンションの毀損が激しく、その修復が困難、または、著しく多額の費用を要する場合には、売主は、マンションの売買契約を解除することができる。その場合には、売主は、買主に対し、受領済みの手付金や売買代金を無条件で返還する。」

 このように、マンションの売買契約では、大規模な地震によりマンションにき裂や損傷が生じた場合、修復が可能であれば、売主の責任と負担で修復を行い、修復後のマンションを引渡し、売買代金の支払いを受けるか、または、売買契約の合意解除を行うのが一般的です。

Q
危険負担について(まとめ)
A

 不動産売買契約は、売買契約締結後、不動産の引渡までに相応の期間があります。その間、不動産が大規模地震、津波、豪雨による土砂災害等の自然災害の発生により毀損、倒壊、滅失、流失等する危険が常に存在するので、「危険負担」の合意をどのように定めるかは、極めて重要です。

 なお、不動産業者が「売主」、または、「仲介(媒介)者」として不動産売買契約に関与する場合、この「危険負担」の合意は「重要事項説明書」に記載して「買主」に説明し、また、「売買契約締結時」に、「売主」及び「買主」に対する「売買契約書」の読み上げにおいて説明します。

 一般的には、不動産の引渡前の「危険負担」を売主が負担しますが、不動産の引渡後は買主が負担するので、不動産の「引渡」をどのように考え、「危険負担」が、いつから買主に移転するのか合意の中で明記することが大切です。(【Q 危険負担について詳しく教えてください。】参照)