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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

不動産売買契約で起こり得るトラブルに関してQ&A形式で解説します。

契約当事者の意思能力・行為能力

Q
意思能力

売主Aさんの土地を購入予定ですが、Aさんは高齢であり、寝たきりの状態で、息子Bさんが売買手続きを進めるとのことです。どのような点に注意する必要がありますか。

A

1 意思能力

(1)

売買契約は、当事者が意思能力(自己の行為の結果を理解できる判断能力)を有していることが必要です。意思能力を欠いた売買契約は無効であり法律効果は生じません。この無効は、絶対的なものであり、契約の相手方だけでなく、当事者の相続人等も無効を主張できます。

(2)

Aさんの土地の売却でも、Aさんが意思能力(土地を売却することの意味・法的な効果を十分に理解できる)を有した状態で売却を行うことが必要です。Aさんが意思能力を欠く状態での土地の売却は無効であり土地の所有権移転や代金支払い義務は発生しません。

(3)

従って、Aさんの土地の売買については、先ず、Aさんの意思能力を確認してください。その方法は、Aさんと直接面談することが望ましいですが、取引実務では、媒介業者が面談し確認を行う事が多くみられます。

2 代理制度

 Aさんの意思能力に問題がない場合には息子Bさんを代理人として土地の売却を行う事ができますが、意思能力に問題がある場合には、息子Bさんを代理人とする代理権の授与が無効となり、息子Bさんが代理して行った土地の売却も無効となります。意思能力に問題がある場合には、後記の成年後見制度を利用し、土地の売却を行う事が必要でしょう。

Q
成年後見制度

成年後見制度とはどのような制度でしょうか

A

1 成年後見制度

 成年後見制度は、精神障害等により判断能力が十分でない者を保護する目的で、本人・配偶者・4親等内の親族等の申立てにより、家庭裁判所が本人に対し成年後見等(成年後見、保佐、補助)の審判を行い、審判を受けた本人(成年被後見人、被保佐人、被補助人)を代理・支援する役割の成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)を選任し、成年後見人等に対し本人を代理する代理権や本人への同意権、本人が行った法律行為の取消権などが付与されます。成年後見人等は、これらの権限に基づき本人の財産管理や身上保護等のサポートを行います。なお、成年後見人等を監督する「後見監督人」「保佐監督人」「補助監督人」を選任する場合があります。

ア.成年後見人

(1)

成年後見人は、判断能力を欠く常況にある成年被後見人の財産を管理し、又財産に関する法律行為を行う代理権が付与された法定代理人です。成年被後見人は、日用品の購入等の軽微な行為を除く一切の法律行為ができません。成年後見人は成年被後見人が行った法律行為を取り消すことが出来ます。

(2)

Aさんが成年被後見人の場合、Aさんの土地の売却は、息子Bさんではなく成年後見人が法定代理人として行う必要があります。なお、Aさんの土地がAさんの住居の場合には、成年後見人は、家庭裁判所の売却許可が必要です。又、成年後見人とAさん(成年被後見人)との間に利益相反関係がある場合には特別代理人の選任が必要となります。

イ.保佐人

(1)

1保佐人は、判断能力が著しく不十分な被保佐人の重要な財産行為について同意権や取消権を有しています。また、被保佐人の同意のもと、審判により特定の法律行為について代理権が与えられます。

(2)

Aさんが被保佐人である場合には、Aさんは保佐人の同意を得て、又、保佐人に代理権が付与されている場合には保佐人が法定代理人となって、Aさんの土地の売却を行います。なお、土地がAさんの住居の場合、保佐人は家庭裁判所の売却許可が必要です。

ウ.補助人

(1)

補助人は、判断能力の不十分な被補助人の保護者であり、被補助人の同意のもと、審判により、被補助人の特定の法律行為について同意権や代理権が付与されます。

(2)

Aさんが被補助人の場合、Aさんの土地の売却に補助人の同意が必要との審判がされている場合には、Aさんは補助人の同意を得て、又、補助人に代理権が付与されている場合には補助人が法定代理人として土地の売却を行う必要があります。この場合、土地がAさんの住居の場合、補助人は、家庭裁判所の売却許可が必要です。

2 売買契約の注意点

 成年後見人等が代理人となって売買契約を行う場合にも様々な確認が必要です。成年後見登記事項証明書等の提示を受け、Aさんの成年被後見人等の事実、成年後見人等の法律行為の代理権付与、Aさんの土地の売却許可の事実を確認して下さい。なお、成年後見制度を活用して土地の売却を行う場合、成年後見等の申立てから審判までには一定の時間がかかるため売買契約の期間に余裕をもって準備を進める必要があります。

Q
未成年の不動産売買

未成年者の所有土地を購入する予定です。どの様な点に注意すべきでしょうか。

A

 未成年者(18歳未満)は年齢的に法律行為の判断能力に不十分な面があると考えられるため、例外行為(単に権利を得る・義務を免れる行為等)を除き、重要な法律行為を単独で行う事は認められておりません。未成年者が売買等の重要な法律行為を行うには、親権者や未成年者後見人の同意を得て行うか、もしくは、親権者等が代理人となって売買契約を行う必要があります。その場合、親権者等が未成年者の法定代理人である事実を戸籍謄本や登記事項証明書等で確認する必要があります。
 また、土地の売買が未成年者と親権者等の間の「利益相反行為」に該当する場合は、特別代理人の選任が必要となります。なお、民法改正により、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられております(2022年4月1日施行)。

Q
契約当事者の意思能力等の調査確認

契約当事者の意思能力や行為能力の確認はどの様に行いますか?

A

(1)

通常の売買契約における当事者の意思能力や行為能力の確認は、先ず、当事者との面談から始まります。多くの場合、媒介業者が当事者との面談を行います。当事者との面談の結果、意思能力等に疑問が生じた場合には、成年後見人等の審判の有無を確認し、同審判書や登記事項証明書等の提出を求め、成年被後見人等の制限行為能力者に該当するか否かの確認を行います。なお、これらの資料はプライバシーにかかわる身上資料なので、あくまでも任意の提供をお願いする以外に方法がありません。また、任意での提供を受けた場合にも、個人情報の取り扱いを慎重に行う必要があります。外部に漏洩し、又、他の目的に利用することは禁止されています。

(2)

当事者が成年被後見人等であることが確認できた場合には、その後の売買交渉の為に法定代理人である成年後見人等と面談し、当事者が成年被後見人等であること、及び、成年後見人等の代理権限及び土地売却の許可の有無を確認します。

(3)

売買契約の最終段階では、不動産の所有権移転登記手続を担当する司法書士が、当事者、又は、当事者が成年被後見人である場合には法定代理人である成年後見人に対して、売買による所有権移転の意思の確認を行います。なお、その際に、当事者の意思能力等に疑問が生じた場合には、所有権移転の意思確認ができないとして所有権移転登記手続が行われないこともあります。

Q
意思表示の錯誤等

隣地に大型店舗ができるとの噂を聞き買い物に便利と考え本件宅地を購入しました。後に、大型店舗の出店はなく、誤解していたことがわかりました。宅地の売買契約を解消することはできますか。

A

1 錯誤による意思表示

(1)

「重要な要素」の錯誤
意思表示に際し後記(2)の錯誤がある場合、それが「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らし重要なものであるとき」(「重要な要素の錯誤」)は、その意思表示を取消すことができます(民95条、旧民法では無効)。

(2)

「錯誤の類型」

錯誤には「表示の錯誤」(表示された内容を欠いた意思表示がされた場合 同条1項1号)と「動機の錯誤」(「法律行為の基礎事情に関する認識」が真実に反していた場合 同項2号)があります。

「動機の錯誤」
本件の場合、買主は「隣地に大型店舗ができる」との認識で売買契約を締結したがその認識が真実に反していた場合ですので「動機の錯誤」の問題となります。この買主の認識が「法律行為(売買契約)の基礎事情に関する認識」となる場合には「錯誤(動機の錯誤)」の可能性がありますが、「基礎事情」となっていないと判断された場合には「錯誤」ではありません。買主の「動機」が「売買契約の基礎事情」となるには、その「動機」が売主に表示され売主・買主共通の基礎事情となる事が必要です。「動機の錯誤」には買主の「動機」の表示が必要です。

従って、本件の場合に「動機の錯誤」による取消をするためには、売買契約において、買主が売主に対し「隣地に大型店舗ができるから売買する」との「動機」を表示し、かつ、この「動機」が、売買契約の「重要な要素」と評価されることが必要です。売主に表示されない場合や売買契約の「重要な要素」と評価できない場合には「動機の錯誤」にならず取消は困難でしょう。

また、錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、一定の場合(①相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失により知らなかったとき、②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき)を除き、意思表示の取消しをすることはできません。

2 その他の意思表示の取消

 意思表示が詐欺又は強迫により行われた場合にも、その意思表示の取消が認められます(民96条)。