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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

不動産売買契約で起こり得るトラブルに関してQ&A形式で解説します。

土地・建物の品質に関する問題点

Q
軟弱地盤

新居を建築予定の土地について「この周辺は軟弱地盤なので、地盤調査をする必要がある」と聞きました。土地が軟弱地盤の場合、売買契約にどのような影響があるのでしょうか。

A

1 建物の敷地に要求される地盤強度

 建物の敷地は、建物を安全に建築・利用するため、建物の荷重に耐える十分な地盤強度を有している必要があります。通常、宅地として売買される土地は、特約がない限り、建物の荷重に耐えうる十分な地盤強度を有していることが前提として取引が行われます。

2 軟弱地盤

 しかし、土地の土層や使用履歴によっては、地盤強度の弱い軟弱地盤の土地も存在します。軟弱地盤は、軟らかい粘土や緩い砂質土等から成る土層であるため、対策を講ぜずに建物を建築すると不同沈下が生じ、また、災害時に液状化が生じる可能性があります。そのため、土地が軟弱地盤の可能性がある場合には、建物を建築する前に地盤調査を行い、必要な地盤強度にするための地盤改良工事を施す必要があります。地盤改良工事は土地面積や地盤の状況により莫大な費用と時間がかかることもあり買主にとって大きな負担となります。

3 売買契約の契約不適合責任

 売買契約前に地盤の軟弱性や地盤改良工事費用について十分な説明がなされていない場合、買主は売主に対して、契約不適合責任に基づく損害賠償請求等を請求することができます。契約不適合責任とは、売買目的物の土地の品質性能が契約締結時に想定された品質性能を有していなかった場合に、売主が買主に負担する債務不履行責任の一つです。購入予定の土地が軟弱地盤の可能性がある場合には、地盤改良の要否・費用負担について十分に確認し、土地の価格を適正に評価した売買を行う必要があります。また、売買改良工事費用が想定より著しく高額となる場合には、想定を超える費用額について分担を協議するとの条項とするなど、契約当事者間で十分に協議の上、売買契約を締結する必要があります。
※契約不適合責任の詳細については【Q 売買契約条項にある「契約不適合責任」とは、どのような責任でしょうか?】を参照ください。

Q
土壌汚染

工場用地を購入する予定ですが、土壌汚染の有無が心配です。どのような点に注意する必要があるでしょうか。

A

1 土壌汚染

 土壌汚染とは、土壌に人体に有害な影響を与える有害物質が含まれている状態を言います。土壌汚染は、自然由来で生じる場合もありますが、工場の操業に伴い有害物質を不適切に処理した場合に生じることもあります。土壌に含まれる有害物質が基準値を超える場合には、人体に有害な影響を与えるおそれがあるため汚染の除去等の措置が必要となります。

(1)

土壌汚染対策法

 土壌汚染対策法では、下記①②③に記載した特定有害物質(鉛、砒素、トリクロロエチレン、放射性物質を除くその他の物質)による土壌汚染のおそれがある場合に、土地の所有者等に対し指定調査機関による土壌汚染状況調査を行わせ、その結果の報告を義務付けています。土壌汚染が指定基準を超過している場合には、「要措置区域」・「形質変更時要届出区域」に指定し、「要措置区域」の所有者等に汚染の除去等の措置を義務付けています。

有害物質使用特定施設(特定有害物質の使用に限る)の使用の廃止時に土壌汚染のおそれがある場合

一定規模(3000m²、但し、現に有害物質使用特定施設が設置されている土地にあっては900m²)以上の土地の形質の変更の届出の際に、土壌汚染のおそれがあると都道府県知事等が認めた場合

土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがあると都道府県知事等が認めた場合

2 売買契約の注意点

(1)

契約不適合責任

 宅地の売買は、特約のない限り、土壌汚染のない安全な土地の売買と考えられます。その宅地に基準値を超える土壌汚染が生じていた場合、その事実を知らずに購入した買主は、事後に汚染除去費用等の負担という不測の損害を被ります。この場合にも、売主の契約不適合責任の問題が生じます。又、この売主の責任は、土壌汚染の原因に関与していない場合にも生じますので、買主がその事実を知らずに購入し、新たな買主に転売した場合にも、同様の売主の契約不適合責任の問題となります。

(2)

事前調査及び契約条項の対応

 土壌汚染によるトラブルを防止するためには、まず、土地の謄本や周囲の聞き込み等により土地の使用履歴やこれまでの状況について調査する必要があります。そして土壌汚染のおそれがあると考えられる場合には、売買契約前に土壌汚染状況調査を行い、その結果を当事者間で共有し、事後の土壌汚染除去等の費用負担を考慮に入れた適正な価格で売買契約を行う必要があります。又、土壌汚染除去等の費用負担が想定を著しく超えた場合には、超過した費用の負担について当事者間で協議し適正に分担するとの合意条項などを行う工夫も必要でしょう。

Q
心理的瑕疵の存在する不動産の売買

居住用建物内で過去に不慮の死が発生していた場合、建物の売買にどのような影響があるでしょうか。

A

1 「心理的瑕疵」

 居住用建物内に過去の自殺、事故死、殺人事件等の人の不慮の死にまつわる「嫌悪すべき事情」が存在する場合には、建物の「心理的瑕疵」の問題となります。居住用建物は、建物内において衣食住を行い、安息の場として利用されるため、不慮の死にまつわる「嫌悪すべき事情」が存在した場合、安息を妨げる「心理的瑕疵」として捉え、売買契約の締結や売買価格の判断に重大な影響を与えることがあります。「嫌悪すべき事情」を知らずに購入した買主は、売主に契約不適合責任を追及するトラブルに発展するため、居住用建物の売買契約ではこの「心理的瑕疵」の調査と告知(説明)が極めて重要です。

2 「心理的瑕疵」の調査・説明義務

(1)

居住用建物の売主は、建物内に「心理的瑕疵」に該当する「嫌悪すべき事情」が存在した場合、信義則上、それを告知する義務を負っていると考えられています。又、「媒介(代理)業者」の宅地建物取引業者も「嫌悪すべき事情」の調査を行い、その結果を買主に説明すべき義務を負っています。

(2)

宅地建物取引業者の「嫌悪すべき事情」の調査説明義務については明確な基準がなかったことから、裁判例では、事件の重大性・経過年数・買主の使用目的・近隣住民の記憶に残っているか等を総合的に判断してきましたが、2021年10月に国土交通省は「宅地建物取引業者の人の死に関するガイドライン」を策定しました。同ガイドラインは、宅地建物取引業者の調査・説明義務に関するものであり、民事上の売主の不適合責任や説明義務に関するものではありません。しかし、売主として、どのような場合にどのような説明をすべきかについて参考になります。

(3)

同ガイドラインでは、原則、不動産売買の対象となる居住用建物内で生じた人の死に関する事情が、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならないとしています。
一方、対象不動産で発生した自然死や日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など)については、原則告知義務はないとしています。但し、これらの自然死等の場合でも、長期間放置され特殊清掃等が行われた場合には、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合には、これを告げなければならないとしています。
また、売買対象不動産で発生した自然死等以外の死については、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合はこれを告げなければならないとしています。調査方法に関しては、宅地建物取引業者は、売主に対し、告知書等への記載を適切に行うよう助言するとともに、これらの死の存在について故意に告知しなかった場合には、 民事上の責任を問われる可能性がある事を伝えることが望ましいとしています。

3 売主の契約不適合責任

 居住用建物に「嫌悪すべき事情」を催すような「心理的瑕疵」が存在した場合にも、売主の契約不適合責任の問題となります。こうしたトラブルを防止するためにも、「心理的瑕疵」の調査・説明が重要です。

Q
耐震基準

不動産の広告に「旧耐震基準」や「新耐震基準」との記載を見ることがあります。耐震基準とはどのような基準でしょうか。また、売買契約にどのような影響を与えるのでしょうか。

A

1 耐震基準

 耐震基準とは、建築基準法が定める建築物の地震に対する強さの最低基準をいいます。現在の耐震基準は、1981年の建築基準法改正によって定められた耐震基準であり「新耐震基準」と呼んでいます。これに対し、1981年改正前の建築基準法に基づく耐震基準を「旧耐震基準」と呼んでいます。「旧耐震基準」は、震度5程度の地震が発生しても大きな被害をうけないことを目的として設定されましたが、1978年に発生した宮城県沖地震(震度5)の被害を受けて「新耐震基準」が導入され、「新耐震基準」は震度5程度の地震に対してはほとんど損傷を生じず、かつ、大規模な地震(震度6強から震度7程度)に対しても人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害が生じないことを目的としています。

2 耐震基準の確認方法

 建物の耐震基準を確認する方法は、建物の建築確認済証の確認の時期が1981年6月1日以前か以降かで確認できます。以前であれば「旧耐震基準」、以降であれば「新耐震基準」です。また、建築確認済証がない場合には、建物の登記記録情報(謄本)の「新築登記日」から推測できます。しかし、建築確認後の工事の大幅な遅れによる建物竣工の遅れに伴い「新築登記日」が遅れた場合には適切な推測ができません。こうした場合、建物の耐震診断を行うことで、建物の安全性を確認出来ます。
 なお「旧耐震基準」の建物でも、耐震補強工事により「新耐震基準」と同様の安全性を確保している建物もあります。耐震診断で安全性が確認された建物は、「耐震基準適合証明書」の発行を受けることができます(建築物の耐震改修の促進に関する法律)。なお、宅地建物取引業者は、重要事項説明に際し、建物の耐震診断の有無及びその結果の説明義務がありますので、その説明で確認することもできます。

3 耐震基準と売買契約への影響

 近時の報道によれば、大規模な地震発生の可能性があるとされているため、新築の住宅や分譲マンションでは、最新の耐震構造を備えた物件が販売されています。しかし、その住宅に施工上の欠陥が存在し、最新の耐震構造を欠く状態であった場合には、やはり契約不適合責任に基づく契約解除や損害賠償の問題に発展します。建物の耐震性能は、建物の価値評価に大きな影響を与える売買契約の重要な契約内容の一つです。

Q
土砂災害警戒区域等

最近、各地の自然災害による甚大な被害の報道がされています。そうした報道の中で「土砂災害警戒区域」「津波災害警戒区域」「造成宅地災害区域」の用語を耳にします。どのような区域でしょうか。また、売買対象物件がこの区域にある場合、どのような点に注意すべきでしょうか。

A

1 災害発生の危険性の認識

 近年、集中豪雨や台風により土砂災害や河川の氾濫等による甚大な被害が繰り返されています。このような自然災害から身を守るため、法令は災害発生の危険性のある区域を「土砂災害警戒区域」・「津波災害警戒区域」・「造成宅地防災区域」等と指定しています。また、これらの区域の中で甚大な被害が発生する危険性のある区域を「特別警戒区域」と指定し、開発行為の規制や建物の構造規制等が行われます。自身の住宅が、どのような区域にあるかを知り事前の対応を心掛けることが大切です。

2 災害発生の危険性のある区域

(1)

「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」

「土砂災害警戒区域」は、土砂災害防止法に基づき指定した、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に住民等の生命又は身体に危険が生ずるおそれがあると認められる区域で、警戒避難体制を特に整備する必要があるとして都道府県知事が指定した区域です。

「土砂災害特別警戒区域」は、「土砂災害警戒区域」のうち、建築物の損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域で、一定の開発行為の制限及び居室を有する建築物の構造規制をすべき区域です。

(2)

「津波災害警戒区域」「津波災害特別警戒区域」

「津波災害警戒区域」は、津波災害地域づくりに関する法律に基づき指定した、津波が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、津波による人的災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべきとして都道府県知事が指定した区域です。

「津波災害特別警戒区域」は、「津波災害警戒区域」のうち、津波が発生した場合に建造物が損壊し、又は、浸水し、住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずると認められる区域で、一定の開発行為及び一定の建築物の建築又は用途変更を制限すべき区域です。

(3)

「造成宅地防災区域」

 「造成宅地防災区域」は、宅地造成法に基づき指定した、宅地造成又は特定盛土等に伴う災害で相当数の居住者等に危害が発生するおそれが大きい一団の造成宅地の区域で、政令の定める基準に該当するものについて都道府県知事が指定した区域です。

3 宅地建物取引業者の説明義務

(1)

宅地建物取引業者は、災害の危険性のある区域か否か、又、当該区域に課された行為制限等を調査の上、「重要事項説明書」に記載して説明する義務があります。又、「土砂災害警戒区域」等の他にも、砂防法、地すべり等防止法、急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律等による区域指定がある場合にはこれらの説明義務が課されています。

(2)

水害ハザードマップにおける対象物件所在地の説明義務

 宅地建物取引業者は、2020年8月28日より、不動産取引に際し、水防法に基づき作成された「水害(洪水・雨水出水、高潮)ハザードマップ」に基づき、取引対象物件の所在地の過去の水害の有無などについて説明する義務が課されました。宅地建物取引業者は、重要事項説明時に最新の「水害ハザードマップ」を提示し、対象物件の概ねの位置を示して説明する必要があります。
 なお、対象物件が「浸水想定区域外」の場合でも、ハザードマップで対象物件の所在地を示す必要があり、その際、ハザードマップに示された避難所の位置を示すことが望ましいとされています。

4 不動産売買における注意点

(1)

不動産売買の対象物件が、「土砂災害警戒区域」等の指定区域に該当する場合には、当該区域の災害の危険性について認識し、避難ルートを確認する等、災害から身を守るための事前の備えが必要です。また、「特別警戒区域」等では、一定の開発行為の制限や建築物の構造制限が課される場合がありますので行為規制の有無等をよく確認する必要があります。なお、災害区域の指定は、定期的に見直しが行われる場合があるので最新の区域指定を確認して下さい。

(2)

なお、土地の災害発生は、自然災害という不可抗力に基づくものであり、売買契約の契約不適合責任の問題とは言えませんが、宅地建物取引業者が災害区域等の説明に誤りや不十分な点が認められる場合には、宅地建物取引業者の説明義務違反という債務不履行責任の問題となる場合も考えられます。

Q
アスベスト

古い建物の解体の際、アスベスト被害が問題となっています。建築物のアスベスト被害について教えてください

A

1 アスベスト

 アスベスト(石綿)は、天然の鉱物繊維で、熱や摩擦や薬品等にも強く・丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、過去の長年に亘り、吹き付け材、保温断熱材、スレート材 等の建築建材等の工業製品に使用されてきました。しかし、建築・製造等の過程で、空気中に浮遊するアスベストを吸引すると、長期間の潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫等を発症することが問題となり、現在は、原則、製造・使用が禁止されています。

2 建築物の解体等による石綿飛散防止対策

 現在、アスベスト建材の使用は禁止されていますが、使用が認められていた時期に建築された建物には、アスベスト建材が残存しています。天井裏や壁の内部にある吹付け石綿は、通常の使用では室内に飛散する可能性は低いと考えられていますが、建物の劣化や解体等を通じてアスベストが飛散し、吸引する危険性があります。そのため、労働安全衛生法や大気汚染防止法等の法令によって、事業者や元請業者等に対して、アスベスト飛散防止対策を義務付けています。2021年改正大気汚染防止法では、全ての石綿含有建材への規制対象を拡大し、記録の保存、及び事前調査の結果報告の義務等、2021年から段階的に施行しています。

3 売買の注意

 宅地建物取引業者は、アスベストに関する調査の有無を確認し、アスベストに関する調査がある場合には調査結果の内容を、その調査がない場合には調査なしを重要事項説明書に記載し、買主に説明する義務があります。
 売買の対象物となる建築物にアスベスト建材が残存する場合、除去等の対策費用や解体工事費用等の負担が生じます。売買契約時にこれらの費用負担に関する十分な説明がされていない場合には、不測の費用負担が発生し契約不適合責任等のトラブルに発展します。契約当事者間で十分に協議の上で売買契約を締結する必要があります。