不動産売買のトラブルQ&A

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不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブルQ&A

不動産売買のトラブル
Q&A

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

安心・安全な不動産売買契約を締結するために不動産売買のトラブルが、どのような局面から生じているか、そのトラブルを防ぐには何を注意すれば良いのかを解りやすく解説しています。

本コンテンツは、不動産売買契約における基本的事項を述べたものであり、実際に不動産の売買契約を締結される場合には、売買契約の対象となる不動産の特質や売主・買主のニーズなどに応じて、契約内容についての特別な考慮等が必要になることがあります。また、本コンテンツの内容は、平成27年8月31日現在の法律に基づき作成されております。
不動産の売買契約に関してお役に立つ法律情報を、Q&A形式で解説しています。

不動産売買の当事者の意思能力と行為能力

Q
売主は、寝たきりの高齢者で、その息子が、売主の自宅の売却を考えていることがわかりました。その自宅を購入する際、どのような点に注意すべきでしょうか?
A

 まず売主が適切な判断能力を有しているか確認しましょう。

 売買契約を「有効」に行うには、売主に売買契約の「是非を判断できる能力(事理を弁識する能力)」が必要です。この「是非を判断できる能力(事理を弁識する能力)」を「意思能力」と言います。「意思能力」を欠いた状態の売買契約は「無効」です。しかも、この売買契約の「無効」は、絶対的なものであり、利害関係を有する全ての第三者、及び、売主の死亡後の相続人も主張できます。

 次に、息子の売却に向けた行動が、売主の意思に沿ったものかを確認する必要があります。息子の行動が、売主の意向に沿った場合には、売主は、息子に対し適正な「代理権限」を付与するのが一般的です。息子が売買契約の交渉の権限及び売買契約締結の権限を有していれば、息子との交渉により円満な売買契約を締結できるでしょう。

Q
「制限行為能力者保護の制度」とはどのような制度ですか?
A

 成人の方は、通常、「意思能力」を有し、売買契約も自らの意思だけで「有効」に行うことができる「行為能力」があります。

 しかし、未成年者は、年齢的にこの能力が十分とはいえず、成人でも家庭裁判所で「成年被後見人」、「被保佐人」、「被補助人」の審判を受けた方は、「是非を判断できる能力(事理を弁識する能力)」が常況的に欠け、または、不十分であるため、社会生活上の一定の行為について制限(行為能力の制限)を受けています(民法5、7、8、11、12、15、16条)。これらの人々を「制限行為能力者」と呼びます。

 「未成年者」は、「親権者(通常は両親)」が「法定代理人」となって売買契約を行います。仮に、「未成年者」が「親権者」の同意を得ずに売買契約を行った場合には、「親権者」は、その売買契約を「取消」することができます。「取消」された売買契約は、遡って「無効」となります。

 また、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族等の請求により、精神上の障害により事理を弁識する能力に欠ける常況にある成人を「成年被後見人」、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である成人を「被保佐人」、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である成人を「被補助人」とする各審判を行います。そして、各々の審判をする際に、これらの制限行為能力者を保護する者として「成年後見人」、「保佐人」、「補助人」を各選任し、さらに、これらの者を監督する者として「後見監督人」、「保佐監督人」、「補助監督人」を選任します。

 「制限行為能力者」の不動産売買は、「成年被後見人」の場合、「成年後見人」を「法定代理人」として、「被保佐人」の場合には、「保佐人」の同意を得て、「被補助人」の場合、家庭裁判所が「補助人」の同意を必要とする行為とする旨の審判がされている場合には、その同意を得て行う必要があります。なお「成年後見人」は、「成年被後見人」の「法定代理人」として売買契約を行う「代理権限」がありますが、「成年被後見人」の「自宅」の売却については、家庭裁判所の事前の個別の許可が必要です。

Q
意思能力と行為能力の確認方法を教えてください。
A

 売主が高齢者で寝たきりの場合、「自宅」の売買の是非を判断できる状況にあるのかが心配です。

 売主と面談して、確認する慎重さが必要です。当事者との面談を行わずに売買契約を締結した場合、不動産の所有権移転登記と売買代金の決済の段階になり、登記手続を依頼した司法書士が当事者と面談し登記委任に関する意思確認を行ったところ、初めて、当事者の「意思能力」に疑問があることが判明し、不動産の所有権移転登記手続を行うことができなくなり、売買契約の債務不履行の問題が生じた紛争もあります。当事者との面談は、必ず売買契約の締結前に行ってください。

 面談の結果、売主の言動から「自宅の売買の是非を判断できる状況にあるのか?」の疑問が生じる場合には、交渉にあたる息子に対し、売主が「成年被後見人」等ではないことを確認する必要があります。

 「成年被後見人」等の審判を受けている場合には、審判書を見せてもらうか、「成年後見人」が誰かの確認をする必要があります。そして、今後の売買の協議は、息子ではなく、「成年後見人」と行うことが必要です。

 未だ「成年被後見人」等の審判を受けていない場合には、息子に対し、家庭裁判所に売主の「後見開始の審判」等を行う助言をしてください。「後見開始の審判」の手続には、数か月以上の期間が必要です。その間、売買契約の交渉は、中断することが安全です。

 既に、売買契約を締結している場合には、「自宅」の所有権移転と売買代金の決済を、「後見開始の審判」後に、「成年後見人」が、この「売買契約」を追認するまで延期すべきです。

 売主が「成年被後見人」となった場合、この売買契約は、売主の「意思能力」が不十分な中で行われた可能性が認められ、「成年後見人」は、「成年被後見人」に不利益な契約と判断した場合にこの契約を「取消」することができ、売買契約は「無効」となります。たとえ、既に自宅の所有権を買主に移転し、また、買主が売主に売買代金の支払いを完了していても、原状回復として元の状態に戻す義務が生じます。

Q
意思能力がない売主から委任を受けた代理人と不動産の売買契約をした場合、その売買契約は有効ですか?
A

 売主の「意思能力」に疑問がある状態のまま、息子が売主の「代行者」となり、または、「代理人」となって「自宅」の売買契約を締結する場合があります。寝たきりの高齢者である売主を介護付きの高齢者施設に入居させる資金を作る目的で、売主の自宅の売却を考えたからです。

 売主の「代行者」として売買契約を締結する場合は、息子が、売主の署名を代わりに行い、また、売主の印鑑を代わりに押捺します。外形上は、売主が自ら売買契約を締結した状態が作出されます。

 売主に「意思能力」がない場合、売買契約は「無効」となります。

 息子が売主に代わって行った署名、捺印の行為は、「意思能力」がない売主の代わりに無効な意思表示を代行したに過ぎないからです。

 売主の「代理人」として売買契約を締結する場合は、息子が売主の「代理人」として顕名した上で署名捺印して売買契約を締結します。

 売主の「代理人」の場合は、売主が息子に「代理権限」を付与した時点で、売主に「意思能力」があったかが問題となります。

 その時点で「意思能力」があれば、売買契約時に「意思能力」が喪失したとしても、息子に対する「代理権限」の付与は有効ですので、息子は、有効な「代理権限」に基づいて売買契約を締結したことになり「有効」です。「代理権限」の付与は、委任契約であり、有効に成立した委任契約は、その後に委任者(売主)が「意思能力」を消滅しても終了しないからです。

 しかし、「代理権限」の付与の時点で、「意思能力」がなければ、売主の息子に対する「代理権限」の付与が「無効」であり、息子は「無権代理人」に過ぎません。「無権代理人」である息子が売主の「代理人」として行った売買契約は「無効」です。

 息子が売主の「代理人」として売買契約を締結した場合には、代理権限の付与時の売主の「意思能力」の有無が問題となります。買主が売主と面談し、その「意思能力」の有無に疑問が生じる場合に、【Q 意思能力と行為能力の確認方法を教えてください。】に記載の対応をすることが必要です。

Q
売買契約の「無効」と「取消」について詳しく教えてください。
A

 「意思能力」がない「意思表示」は、「無効」です。「無効」とは、「意思表示」の内容に従った「法的な効力」が生じないことです。「意思能力」がない「意思表示」により締結された「売買契約」は「無効」となります。「無効」な「売買契約」は、「法的な効力」が生じません。「不動産」等の権利(所有権)が買主に移転せず、また、買主に、売買代金を支払う義務が発生しません。

 この「無効」は、絶対的なものであり、売主や買主の当事者以外の関係者(売主の相続人、利害関係を有する第三者)からも主張することができます。「無効」な「売買契約」を締結した売主が死亡した場合、「不動産」の所有権は、買主に移転せず、売主の相続人に相続により承継されます。売主の相続人は、買主に「売買契約」の「無効」を主張して、「不動産」の返還を請求することができます。

 なお、「無効」な「売買契約」を行った売主が、その後「意思能力」を回復した場合には、「売買契約」を「追認」することができます。「追認」は、将来に向い「有効」な売買契約とする意思表示です。

 一方、「意思能力」がある「意思表示」は、その「意思表示」の内容に従った「法的な効力」が生じます。「売買契約」も「有効」です。

 「有効」な「売買契約」が締結された場合、売主は、買主に対し、「不動産」の所有権を移転する義務を、買主は、売主に「売買代金」を支払う義務を負担します。

 ただし「売買契約」締結後に「売主」が「成年被後見人」の審判を受けた場合、「成年後見人」は、「売買契約」が「成年被後見人」に不利益でない場合には「追認」することができ、不利益な場合には「取消」ができます。「成年後見人」の「追認」は、「売買契約」の「有効」を確定させる行為ですが、「取消」は、その「売買契約」の法的な効果を遡及的に「無効」とするものです。「取消」を行うことができるのは、法律で定められており、前記の他にも詐欺や脅迫の取消などがあります(民法96条)。

Q
売買契約当事者の意思能力と行為能力の調査等の際の注意事項を教えてください。
A

 売買契約の当事者の意思能力や行為能力の有無の調査は、当事者との面談から始まります。

 通常、「不動産業者」を介して売買契約を行いますので「不動産業者」が、当事者との面談を行ってくれます。

 当事者との面談の結果、「意思能力」に疑問が生じた場合には、家裁の審判書や戸籍謄本等の資料の提供を求め、「成年被後見人」等の「制限行為能力者」に該当するのかの確認を行います。

 なお、これらの資料は、プライバシーにかかわる身上資料ですので、あくまで任意の提供をお願いする以外に方法がありません。また、任意の提供を受けた場合にも、個人情報の取扱いを慎重に行う必要があります。外部に漏えいし、また、他の目的に流用することは禁止されています。

 「制限行為能力者」であることが判明した場合には、「成年後見人」等との面談を行う必要があります。

 「成年被後見人」の場合には、「成年後見人」が「代理人」(法定代理人)として「不動産」の「売買契約」を行うからです。なお、その「不動産」が「成年被後見人」の「自宅」である場合には、家裁の事前の許可を得て売買契約を締結します。

 「成年被後見人」の審判を受ける前、または、「成年被後見人」の審判後に自ら「不動産」の「売買契約」を締結した場合には、「成年後見人」は、その「売買契約」を「追認」、または、「取消」できます(【Q 売買契約の「無効」と「取消」について詳しく教えてください。】、参照)。なお、「不動産」が「成年被後見人」の「自宅」の場合には、その「追認」に際しても家裁の事前の許可が必要です。

 「被保佐人」や「被補助人」の場合には、通常、審判の中で「不動産」の「売買契約」について、「保佐人」や「補助人」の「同意」を必要とするとの制限を課します。この場合、「保佐人」や「補助人」の「同意」を得て「不動産」の「売買契約」を行う必要があります。

 このように「成年後見人」等との面談は、売買契約の交渉、「家裁の事前の許可」の確認、「追認」に向けた協議、「同意」の取得が必要な前提行為です。

 売買契約の最終履行の段階では、「不動産」の所有権移転登記手続を担当する司法書士が、売主に対し「所有権移転の意思」の確認を行います。意思確認ができれば、「不動産」の所有権移転登記が行われます。しかし、意思能力に疑問が生じ、意思確認ができない場合には「不動産」の所有権移転登記手続を行わず売買契約のトラブルとなります(【Q 意思能力と行為能力の確認方法を教えてください。】参照)。

 「不動産」の「売買契約」は、当事者との事前の面談、「成年後見人」等との面談、司法書士による面談により、当事者の「意思能力」や「制限行為能力者」の有無を確認して行われることで「安心、安全な売買契約」となるのです。

 なお、「不動産」の「所有者(個人、法人)」が「破産宣告」を受けた場合にも、同様の問題が生じます。「破産管財人」が管理処分権を有する「破産財団」となった場合には、「所有者本人」ではなく、「破産管財人」が売却処分する権限を有しますので注意してください。