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弁護士
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2015年11月号

不動産売買に際し、留意しなければならない事項を弁護士が解説した法律のアドバイスです。

不動産売買のときに気をつけること~「行為能力」

 今回のテーマは、不動産売買のときに気をつけることとして「行為能力」の問題をとりあげます。

ご相談

 私は、ある土地の購入を考えておりますが、その土地の所有者(相手方)に「きちんとした判断能力」がなければどのようになるのでしょうか。

ここがポイント

<1.私的自治の原則>
 不動産売買をはじめとした私法上の法律関係は、権利義務の主体となる者が、その自由な意思に基づいてのみ発生・変更させる、という原則があります。
 これを「私的自治の原則」といいます。

<2.意思能力がない者がした行為は無効>
「私的自治の原則」の帰結として、契約を締結する際に「意思能力」が必要とされています。
「意思能力」とは、自分の行為の法的な結果を認識・判断できる能力のことを言います。不動産売買の場合、売主として売買契約を締結すると、売った不動産の所有権は買主のものになり、その代わりに売主は代金の支払を受けられると認識できる能力です。
「意思能力」の有無は、問題となっている行為の種類や内容によって異なると言われていますが、一般的には、「7歳から10歳の子どもの判断能力」すらない者(大人であっても)や泥酔者などは「意思能力」がないとされています。
「問題となっている行為の種類や内容によって異なる」というのは、たとえば「お菓子を買う」意思能力は「ある」としても、「不動産を買う」意思能力は「ない」と判断されることもあるということです。
 それでは、「意思能力」のない人(意思無能力者)がした「意思表示」はどうなるでしょうか。結論は「無効」となります。民法に規定はありませんが、当然の前提とされており、裁判例も同じ考えです。
 不動産売買契約書にサインをした売主が「意思能力」を有していなかった場合、その不動産売買契約は「無効」となる、ということです。

<3.行為能力とは>
「意思能力がない人の法律行為は無効」なのですから、それによって、「意思能力がない人」の「保護」は、一応、図られているといえます。しかしながら、「意思能力がない人を保護する」という観点では十分な「保護」とはいえないとされています。
 なぜなら、意思能力が「有る」か「無い」かは、行為者ごとに、個別的・具体的に判断しなければなりませんが、行為当時に意思能力が無かったことを立証するのは必ずしも容易ではありません。
 そこで、「取引をする能力が完全ではない者」を一定の形式的な基準で画一的に定め、行為当時に具体的に意思能力があったどうかを問わず、一律に法律行為を取り消すことができるものと法律はしています。法律行為を単独で有効にすることができる法律上の能力を「行為能力」といいますが、「意思能力が完全でない」として定型化されている者を「行為能力が制限されている」といいます。

 行為能力が制限されている者には次のようなものがあります。
 (1)未成年者
 (2)成年被後見人
 (3)被保佐人
 (4)被補助人
 以下、具体的にみていきましょう。

<4.未成年者>
 未成年者が不動産売買契約を締結するためには、親権者等の法定代理人の同意が必要です。
 同意なく不動産売買契約を締結した場合には、その契約を取り消すことが可能です。
 なお、親権者は、未成年者の法定代理人として、未成年者が所有する不動産について売買契約を締結することができます。

<5.成年被後見人>
 精神上の障害のため判断能力が十分でない人について、その人の判断能力等の程度に応じて、家庭裁判所が審判で決定するものに、成年被後見人、被保佐人、被補助人があります。これは、判断能力が十分でない人を保護する制度として位置づけられます。
 そのうち、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、一定の者の請求により家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人を「成年被後見人」といいます。成年被後見人の行為能力の制限は、前述の3つの制度の中で最も大きく、日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて、全ての法律行為について常に取り消すことができます。不動産売買も同様です。
 なお、成年被後見人も、成年後見人が代理することで売買契約を締結することは可能ですが、売却する不動産が居住用の場合は、家庭裁判所の許可が必要であり、家庭裁判所の許可がなければいくら成年後見人が代理人として契約しても無効となります。

<6.被保佐人・被補助人>
(1)精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分な者で、一定の者の請求により家庭裁判所から保佐開始の審判を受けた人を「被保佐人」といいます。
 被保佐人が不動産の売買契約を締結するには裁判所が選任する保佐人の同意が必要です。保佐人の同意なく売買契約を締結したとしても、売買契約を取消すことができます。
 なお、保佐人は、法律上当然に代理権を持つ成年後見人と異なり、家庭裁判所が特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をしてはじめて、当該行為についての代理権を持つに至ります。
 したがって、保佐人との間で売買契約を締結する場合には、その売買契約の締結について保佐人に代理権があるのか等、事前に確認する必要があります。

(2)精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者のうち、被後見人や被保佐人の程度に至らない軽度の状態にある者で、一定の者の請求により家庭裁判所から補助開始の審判を受けた人を「被補助人」といいます。
 被補助人は、補助人の同意を必要とするものとして審判で定められた法律行為(売買契約の締結など)については、補助人の同意を得る必要があり、補助人の同意なく売買契約を締結したとしても取消すことができます。したがって、不動産の売買契約について補助人の同意を得なければならないと定める審判がある場合には、補助人の同意が必要であり、補助人の同意なしに締結した売買契約は取消すことができます。
 なお、補助人についても、前述の保佐人と同様、補助人に一定の代理権を付与する審判が認められていますので、補助人を代理人として売買契約を締結できる場合があります。

<7.相手方に「きちんとした判断能力」がなければどのようになるのでしょうか>
(1)「きちんとした判断能力」という表現のなかには、いろいろなレベルが含まれます。
 それらのうち、相手方に「意思能力がない場合」であれば、いくら不動産売買契約書に署名押印しても、その不動産売買契約は「無効」となってしまいます。

(2)相手方の意思能力の有無にかかわらず、相手方が未成年である場合、未成年者と不動産売買契約を締結するためには、親権者等の法定代理人の同意が必要で、同意なく不動産売買契約を締結した場合には、その契約を取り消すことが可能です。

(3)被後見人の場合なども同様に考えていただければ結構です。意思能力が完全でない方を保護する制度として取り消しが可能ということは、取引の相手方である方からすると、取り消されるリスクがある、ということです。
 今回の〔御相談〕にあるように、土地を購入しようとしている相談者の方に落ち度はなくても、売主である相手方の土地所有者が未成年者・被後見人・被保佐人・被補助人である場合は、取り消されたりするリスクがあるので注意が必要です(なお、民法21条では「制限行為無能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない」と定められています)。

(4)また、家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選任していなくても、本人の「意思能力」がない場合は、不動産売買契約書にサインしても「無効」となります。
 そして、精神上の障害のために判断能力が十分でない者でも、常時、判断能力がないとは限らず、判断能力を備えているときもあるため、意思能力の「有る」「無し」の区別が難しい場合もあることに注意が必要です。

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