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2015年4月号

不動産売買に際し、留意しなければならない事項を弁護士が解説した法律のアドバイスです。

不動産売買のときに気をつけること~土地の境界

相談事例

ここがポイント

1.〔土地の境界〕
 土地というものは、土地そのものだけでみますと、地表面は連続していますので、境界がわからない、あるいは、境界がはっきりしない、ということがあります。
 境界がはっきりしない場合、境界を明確にするための具体的方法については、たとえば、次のようなものがあります。

2.〔境界を明確にする具体的方法の一例〕
(1)境界確定の訴え
 土地所有者であるあなたが、隣地の所有者との間で、境界について争いがある場合、裁判所に対して、「境界確定の訴え」を提起することができます。
 この「境界確定の訴え」の法的性質などということが議論されることがありますが、通常の民事訴訟とは異なる特色がある、といわれています。例えば、境界確定の訴えにおいて、証拠調べの結果、裁判所として特定の位置に境界線があるとの心証に達しなかったとしても、原告(訴えを起こした方)の請求を棄却することは許されず、裁判所は、合理的な裁量により特定の位置を境界線と確定しなければならないとされています。また、被告(訴えを起こされた方)の欠席のみを理由として原告を勝訴させる、いわゆる欠席判決もできないと言われているのです。
 以上について、言葉をかえれば、「境界確定の訴え」によって、証拠調べをしたうえ、裁判所に境界線を確定してもらえるということになります。

(2)筆界特定手続
 不動産登記法の改正で新たに導入された制度で、登記所の登記官によって筆界を特定してもらう手続です。これを「筆界特定手続」といい、平成18年1月20日から施行されています。
 「筆界」というのは、土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線を言います。この「筆界」は、所有者同士の合意などによって変更することはできないと言われています。
 この「筆界」を、筆界調査委員という専門家などが、現地において、実地調査・測量・関係人に対する事実の聴取・資料提出を求めるなどして調査を行い、そして、それらの意見をふまえ、筆界特定登記官が「筆界」を特定します。新たに「筆界」を決めるものではなく、調査の上、登記された際に定められたもともとの「筆界」を筆界特定登記官が明らかにする手続きです。
 「筆界特定手続」と「境界確定の訴え」はどちらも起こすことができますが、筆界特定はあくまで筆界特定登記官の認定判断であって、法的な効力をもって筆界を確定するものではないので、「境界確定の訴え」が優越する、という関係にあります。
 筆界特定の結果に納得することができないときは、後から、裁判で争うこともできます。

(3)境界の合意(境界確認の合意)
 以上のような「(1)境界の確定の訴え」や「(2)筆界特定手続」という方法はありますが、裁判や筆界特定手続をつかわなくても、「境界の合意」ができるケースが多くあります。例えば、売主が、隣地所有者に立ち会いを求めて、土地の境界を確認する、ということがしばしば行われます。そのような「境界の合意」によっても境界が明確になるといえます。
 なお、ここで、重要な点でご留意いただきたいことがあります。
 土地について「境界」という場合、それには2つの意味があると言われています。1つは、「公法上の境界」です。これをさきほど「筆界」と述べました。
 もう1つは、「私法上の境界」です。
 「私法上の境界」とは、私人間の「土地の所有権」の境界を決めるというもので、私人間で合意できますが、「公法上の境界」は、国のみが定められるものであって、性質上、最初から客観的に定まっており、私人間の合意によって決めることはできないとされています。
 前述した「(1)境界の確定の訴え」や「(2)筆界特定手続」とは、「公法上の境界」を確定する手続であり、「私法上の境界」を確認する裁判としては「土地所有権の確認の訴え」という方法があります。

3.売主は、買主に対し、売買する土地の範囲を特定し、隣地との境界を指示しなければなりません。
 可能であれば、現地で、隣地所有者の立ち会いで土地の境界を確認し、境界杭の設置をしたり、測量することも有益です。

4.〔どのような資料・証拠によって境界が判断されるのでしょうか〕
(1)ご覧になったことがある方も多いと存じますが、「境界標」と言われているものがあります。境界杭や境界石などです。
 ア)一見して、境界標であることが明白で、発見しやすいもの
 イ)容易に移動しないもの
 ウ)腐食せず、長い年月に耐えうるもの
という性質が必要と言われており、一般的には、石杭、コンクリート杭、鉄鋲などが用いられています。

(2)「境界標」は、境界を示すために、過去において、人為的に設置された目印です。
「境界標」があることは、境界の位置を推定するひとつの材料となりますが、絶対の判断基準ではありません。
 なぜなら、境界標は、もともと、正確な位置になかったり、あるいは、もともとは正確な位置であったとしても、長い年月がたって、利害のある人が勝手に移動させてしまったり、また自然に移動してしまうこともあるからです。

(3)境界が確定しているのに、境界標の設置がされていない場合があります。この点について、民法では次のように規定されています。
 ア)(民法223条)土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
 イ)(民法224条)境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
 境界標によって境界を明確に表示することは土地所有権の侵害を未然に防ぐことになりますから、隣地所有者に対し設置に協力するよう求めることができると民法は定めているのです。

(4)「境界を判断する資料・証拠」として「境界標」から述べさせていただきましたが、それは、現地においてしばしば目にすることができるからでした。
 現地において見ることができるものとしては、「人為的」な「境界標」以上に「自然の地形」が判断材料となる場合もあります。
 例えば、自然の道、尾根、沢、がけ、岩、堀などです。

(5)「現地において見ることができるもの」以外に有力な資料となるものとしては、登記所備え付けの地図等があります。
 ア)14条地図
 土地は、登記記録の表題部に「所在」「地番」「地目」「地積」が表示されていますが、その表示を見ても、その土地が、現地でどのような位置にどのような形や広がりをもって存在しているかはわかりません。
 そこで、不動産登記法14条は、登記所に登記記録を補完するものとして、「各土地の区画を明確にし、地番を表示する」地図を備えるよう規定しました。これを14条地図といいます。なお、改正前は17条地図ともいっていました。
 この14条地図は、精度が高く、「現地復元能力」があると言われます。土砂崩れなどによって境界紛争が生じても、その土地の位置関係と形状を現地ではっきりと復元できるということです。
 イ)公図
 公図は、未熟な測量技術、作成目的が徴税で、短期に行われたことなどの理由から正確性を欠いており、14条地図のような現地復元力は認められていないといわれます。
 しかし、距離、面積、方位、角度などについては精度が低いものの、土地の形状、土地の配列状況などについては、他に図面がないときには、境界確定の証拠として実務で利用されることがしばしばあります。
 ウ)地積測量図
 地積測量図は、土地の表示登記など登記記録上、新たな地積を記載すべき登記申請の際に添付情報として登記所に提出される図面です。申請にかかる土地の地積や求積方法を明らかにし、境界標があるときは当該境界標の表示を記録することになっています。また、近くに基本三角点等に基づく測量ができない場合は、近くの恒久的な地物との位置関係が記載されます。したがって、地積測量図には現地を特定する機能があるといわれます。

5.以上に述べた以外にも、登記上の地積と実測面積との対比が境界確定の資料となることもあります。
 また、占有状況がどのようなものであるか、あるいは、地元に古くからいる方の証言などが資料になることもあります。
 御相談者は、親から相続をされた土地の売却を考えておられるとのことですが、以前、居住されていた土地であれば、昔の写真なども証拠となるかもしれませんので、なにか昔の資料などはないかと探してみられるとよいでしょう。

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