不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産売買のトラブルアドバイス当事者に関する重要な事項(他人名義と売買)(2016年3月号)

不動産売買のトラブルアドバイス

専門家のアドバイス
瀬川徹

不動産売買のトラブルアドバイス

不動産売買のトラブル
アドバイス

弁護士
瀬川徹法律事務所
瀬川徹 瀬川百合子

2016年3月号

不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

当事者に関する重要な事項(他人名義と売買)

Q

A(他人名義と売買)

2 他人名義の不動産の売買
(1)登記記録に記載された事項
①重要事項説明書に「登記記録に記載された事項」の欄があり、本件の中古住宅の登記(登記記録)事項が記載されます。その結果、登記上の本件の中古住宅の特定に必要な要素、所有権やそれを阻害する権利(抵当権等)の有無が明らかになります。
②同時に、本件の中古住宅の売主が登記名義人であるのかが明らかになります。売主と登記名義人が同一である場合には、売主の所有権の確認が容易となり、又、引渡に伴う所有権移転登記手続にも問題がありません。しかし、売主と登記名義人が同一でない場合には、「他人名義の不動産売買」をしたことになり、売主の所有権や売買権限の確認、又、引渡に伴う所有権移転登記手続にも複雑な問題が残ります。
(2)他人名義の不動産の売買
①「他人名義の不動産の売買」には、「売主が所有者であるが未だ登記名義が他人の場合」と「売主が未だ所有者ではないので登記名義も他人の場合(「他人物の売買」)」があります。
②売主が一般の方(非宅建業者)の場合には、前記のどちらの売買にも法的制約はありません。しかし、売主が宅建業者の場合には、その不動産を取得する契約をしている等の一定の場合以外は、前記「他人物の売買」を行うことを禁止しています(宅建業法33条の2)。これは、買主が、事後において、宅建業者である売主に担保責任を追及しても現実には責任が全うされない怖れがある為、その危険を防止する為の規定です。
(3)本件の中古住宅の売買
 Aは、一般の方(非宅建業者)ですので「他人名義の不動産の売買」をすることに制約はありませんが、あなたに対し、本件の中古住宅の所有権を移転できるか、又、所有権移転登記手続を行なうことができるかの問題は残ります。

3 中古住宅の相続
 本件の中古住宅の相続は、Bの遺言がある場合には、遺言によりますが、遺言がない場合には、法定相続に従います。
(1)遺言による相続
①遺言は、遺言者の最終の意思の表明として最優先します。遺言の効果は、遺言者の死亡の時に発生しますので、遺言で本件の中古住宅の相続人を指定した場合、その相続人が、遺言者の死亡の時に中古住宅の所有権を承継します。
②遺言の方式は、一般的には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言が見受けられますが、緊急時の遺言も存在します。
③自筆証書遺言は、遺言者が全文(内容、日付)を自筆し捺印した遺言書です。この遺言書は、家庭裁判所の検認手続を経た上で執行されます。
④公正証書遺言は、遺言者が公証人の面前で遺言内容を述べて、公証人が遺言書を作成するもので、家庭裁判所の検認手続は不要です。
⑤秘密証書遺言は、遺言者が遺言書に署名押印後、それを封書に同じ押印で封印し、公証人と証人2名以上の前に提出し、公証人が日付と遺言者の申述を封書に記載後、公証人らが署名捺印したものです。遺言書を開封するには、家庭裁判所において相続人等の立会いが必要です。
⑥遺言内容が、法定相続人(Bの子、配偶者、親等)の遺留分(法が定める遺産に対する最低限度の貰い分)を侵害する場合には、侵害された法定相続人が、遺留分を侵害する者に対し遺留分減殺請求を行うことができます。
(2)法定相続
①遺言がない場合には、法定相続人による相続が行われます(法定相続)。法定相続の場合も、Bが死亡した時から相続が発生します。
②法定相続は、法定相続人間の任意の協議により行い、協議が整うと遺産分割協議書と呼ばれる遺産分割の合意書が作成されます。
③しかし、任意の協議が整わない場合には、遺産分割の調停や裁判へと発展します。調停、裁判の場合にも、合意が整えば、調停調書や和解調書が作成されますが、最終的には判決(審判)によります。
④遺産分割の協議や審判では、法定相続分を基本にしながら、特別受益(Bからの生前贈与等)や寄与分(Bの事業などへの労務提供や財産提供等)などを考慮します。
(3)本件の中古住宅の相続人の確定と問題点
①法定相続人の調査
ⅰ遺言の有無や遺産分割協議等の内容は、Aを含むBの法定相続人に確認することが現実的です。Bの法定相続人は、Bの遺言に事実上関与することがあり、又、遺産分割協議等の当事者だからです。
ⅱBの法定相続人は、Bの子、配偶者、親、兄弟姉妹等ですが、Bの除籍謄本からBの幼少期までの原戸籍を取り寄せて確定します。しかし、これらの戸籍謄本等の交付申請は、Bの法定相続人と職務上の請求権者以外の者はできません。従って、本件では先ず法定相続人Aに対し調査の協力を求めることになります。Aは、売主となるためには中古住宅の相続人であることを明らかにする必要がありますので、あなたは、仲介業者を介して、Aに対し、この協力を求めるべきです。その上で、法定相続人に対し、遺言の有無、遺産分割協議等の内容を確認すべきです。
②相続人の確定と問題点
ⅰ本件の中古住宅の相続人の確定は、「Aが単独相続人の場合」、「Aが他の法定相続人と共同で相続した場合」、「A以外の者が相続した場合」が考えられます。
ⅱ「Aが単独相続人の場合」は、Aが中古住宅の単独所有者ですのでAと売買契約をすることに問題はありません。中古住宅の引渡時に相続登記を行った上で、所有権移転登記手続をすることができます。
ⅲ「Aが他の法定相続人と共同で相続した場合」は、中古住宅はAと他の法定相続人の共有で、売買には共有者全員の同意が必要ですので、共有者全員との売買契約を行うことが大切です。又、売買代金の支払先も共有者全員となりますので、仲介業者の専門的な指導助言が必要です。
ⅳ「A以外の者が相続した場合」は、Aとの売買契約が「他人物の売買」に該当します。あなたが中古住宅を取得するには、Aが中古住宅の相続人から購入して引渡す必要がありますので、仲介業者は、中古住宅の相続人がAに売買する意思があるかの確認をする必要があります。
ⅴ又、あなたが、A以外の相続人から直接売買をすることを考えた場合には、Aの借家権の有無が問題となります。Aの同居の状況(家賃の有無等)如何により、借家権が認められる場合には、あなたは本件中古住宅を購入しても、直ぐには自己使用ができないことも考えられます。

4 本件の「重要事項説明」
①本件の中古住宅の売買を安心、安全に行う為には、前記のような法定相続人の調査方法や相続に関する専門的な知識が必要となります。又、相続の形態の違いによる売買契約上の留意点に関する法的知識も必要です。
②仲介業者は、あなたに対し、これらの調査結果を報告し、必要な知識を提供する義務があります。従って「重要事項説明書」の「登記記録に記載された事項」の欄に「登記名義人B」と記載するだけでなく、末尾の備考欄等に調査結果や必要な問題点を記載し、添付の資料等を用いて詳細な説明を行う必要があります。

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