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不動産市場の動向

専門家のコラム
大森広司
不動産市場の動向

株式会社オイコス代表取締役

大森 広司

2012年1月号

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公示価格や路線価から読み取る不動産市場の動向に関するコラムです。

マンションを中心に見通す2012年住宅市場の現状と今後

首都圏の新築供給は2極化 中古流通は各エリアで拡大へ

 2011年はなんといっても東日本大震災の影響が各方面に及んだ1年でした。引き続き復興が大きな課題となる2012年の住宅市場はどう動くのか、マンションを中心に見ていきましょう。
 まず首都圏では新築マンションのマーケットが2極化するとの見方が強まっています。2007年以降の供給戸数を見ると、東京都と神奈川県はさほど大きな減少はありません。一方で千葉県と埼玉県は供給が減少してきており、特に2011年は前年比で大きくダウンしました。この傾向は2012年も続くというのが、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員・中山登志朗さんの予測です。
「都心部や駅の近く、城南・城西や横浜・川崎など人気のエリアでは物件の売れ行きが順調で、供給もコンスタントに続くとみられます。千葉・埼玉でも都心寄りの地域では大規模マンションなどがいくつか計画中です。しかし両県でも大宮市以北や千葉市中央区以東などの郊外部は一戸建てエリアとなりつつあり、マンションの供給は今後も限定的となるでしょう」(以下同)
 一方、中古マンションは各都県とも流通事例数が増加傾向にあり、市場が拡大している様子が明確になっています。「新築供給のエリアが絞られるなか、地域にこだわって探す人が中古マンションを検討するケースが増えています。ただ、大震災の影響で、旧耐震基準で建てられた築30年を超える物件は売れにくくなっているようです」
 ちなみに坪単価は新築・中古とも安定しています。地価動向が安定的に推移するなか、今後も急激な価格の変動はなさそうです。

大阪市中心部で新築供給が急減 割安な中古物件へのシフトが進む

 近畿圏の大阪府・京都府・兵庫県では、いずれも2011年は新築マンションの供給戸数が前年比で減少しています。特に大阪府は減少が著しく、ほぼ4割減という状況でした。
 「2009年から2010年にかけては大阪市中心部で大型物件の供給が活発でしたが、それらの多くが販売を継続しており、新規供給は手控えられている状況です。京都府や兵庫県も同様の動きとなっていますが、大阪府ほど極端な増減にはなっていません」
 これに対し、中古マンションは流通事例数が拡大しており、特に大阪府の増加が目立ちます。新築の供給が絞られるなか、全エリアでまんべんなく探せる中古物件にシフトする傾向が見られるのは、首都圏と同様といえそうです。
「特に近畿圏は消費者の価格に対する見方が厳しいので、より割安な中古物件にシフトしやすい面はあるでしょう」
 2012年も引き続き中古物件の流通が拡大し、新築物件の供給が絞られる“中増新減”の市場動向が続くとの見方が強まっています。地価が弱含みで推移する中、新築・中古とも価格は横ばいないし下落基調で推移するとの予測です。
「坪単価300万円台半ばで分譲されている梅田北ヤード地区の高額物件が販売好調と伝えられており、今後の市況を占ううえで注目できます」

新築供給の減少が続く愛知県 福岡県は市況が比較的安定

 中部圏と九州圏の動向についても、愛知県と福岡県を例に見てみましょう。
 まず愛知県では新築マンションの供給が減少傾向となっており、2003年のピーク時に比べて2011年はほぼ2分の1の水準となっています。
「2000年代前半は資産デフレに伴い、名古屋市内西部を中心に割安なマンションが大量に供給されていました。それが2008年のリーマン・ショック以降は供給がほぼ名古屋市中心部と東部の注宅地に絞られ、価格は高止まりしている状況です。2011年後半からは40階を超える超高層物件が相次いで供給されていますが、全体として新築の物件数はさほど増えないでしょう」
 逆に中古マンションは流通事例数が伸びており、2011年は4万戸を超えました。新築と比べて坪単価が約半額という割安感が中古需要を支えているようです。
「名古屋ではこれまで一戸建ての需要が根強かったのですが、最近の若い子育て世代は利便性を重視してマンションを選ぶケースが増えており、特に築年数の浅い中古物件が人気です」
 一方、福岡県でも新築物件の供給は減り気味ですが、2011年の対前年の減り方は緩やかです。中古物件の流通事例数は伸びてきており、新築・中古とも比較的安定した市況といえるでしょう。
「福岡市内では地下鉄の整備により交通の便が向上し、駅周辺でのマンション供給も活発化しています。また福岡空港や博多港へのアクセスも良く、東京や大阪、さらに韓国・中国や東南アジアへの玄関口としても注目されており、大手デベロッパーによる物件供給も期待できそうです」

住宅エコポイントやフラット35S 税制改正も住宅購入を後押ししそう

 全体として新築の供給が絞られ、中古の流通が活性化しているマンション市場ですが、税制やローンなどの購入環境はどうでしょうか。
 まず2011年後半に見られた動きとして、住宅エコポイントとフラット35S金利引き下げの復活が挙げられます。いずれも申し込みが予算枠を上回ったため、2011年の途中でいったん打ち切られましたが、補正予算によって再開したものです。両制度とも震災復興を念頭に置いたものなので、被災地以外での優遇内容は以前と比べてやや絞られていますが、住宅購入を後押しする制度として注目されています。
 また、年末にまとめられた2012年度の税制改正大綱では、住宅ローン控除の拡充や贈与税の非課税枠の延長・拡大が盛り込まれており、こちらも住宅需要を刺激するのに大いにインパクトがありそうです。これは住宅エコポイントやフラット35Sにも共通することですが、税制改正でも省エネ性能の高い住宅に対する優遇が手厚くなっています。2012年度中に制度がスタートする予定の認定省エネ住宅(仮称)に認定されると、住宅ローン控除の控除額が最大100万円アップし、贈与税の非課税枠も省エネ基準を満たせば500万円拡大されるという内容です。これから住宅の購入を検討するのであれば、省エネ性能をチェックするのが賢い買い方になるでしょう。
 もうひとつ気になる動きとして、政府が進めようとしている社会保障と税の一体改革にも注意が必要です。2012年初頭にまとまった素案によると、消費税は2014年4月に8%に引き上げを目指すとされています。また相続税の基礎控除引き下げなどの案も盛り込まれており、相続時精算課税を利用して住宅取得資金の贈与を受ける予定の人などには気になる影響の大きな内容です。
「新築マンションの建物価格にかかる消費税は原則として引き渡し日ベースで決まります。 これから分譲される大規模物件の中には2014年4月以降の引き渡しとなるケースも出てくるので、当初予定よりも税負担が 増えないかどうか確認が必要になるでしょう」(中山さん)
  不透明感が強まる景気動向とのからみもあり、2012年の住宅マーケットからは引き続き目が離せない状況といえそうです。

ワンポイント豆知識

●住宅エコポイント
  • 2010年3月にスタートした 第1弾の住宅エコポイントは30万円相当という交付ポイントのおトク感から申請が急増し、当初より5カ月早く2011年7月末の着工で打ち切られました。その後補正予算により再開した第2弾は「復興支援・住宅エコポイント」と銘打ち、被災地は 30万、それ以外は15万ポイントが交付されるという内容です。新築・リフォームとも2012年10月31日の着工案件までが対象となります。
●フラット35S
  • 耐震性など一定の基準を満たす住宅に 対し、フラット35の当初金利を引き下げるフラット35Sは、経済対策で当初10年間の引き下げ幅が1%に拡大されていました。それが2011年9月末でいったん打ち切られ、10月からは引き下げ幅が0.3%に縮小。補正予算で再開後は当初5年間の引き下げ幅が0.7%(被災地は1%)で、対象住宅は省エネ基準を満たす住宅に限定されました。2012年10月31日までの申し込み分が対象です。
●2012年度税制改正
  • 税制改正大綱では、(1)認定省エネ住宅(仮称)を取得した場合の住宅ローン控除の控除額を、一般住宅より100万円引き上げ、2012年入居は最大400万円とする、(2)直系尊属から省エネまたは耐震性のある住宅の取得資金の贈与を受けた場合の贈与税非課税枠を一般住宅より500万円引き上げ、2012年は1500万円とする?などの案が盛り込まれました。国会審議をへて3月末までに決定される予定です。
●社会保障・税一体改革素案
  • 政府素案では、消費税を2014年4月1日から8%に、2015年10月1日から10%に、それぞれ引き上げる案となっています。ほかに相続税の基礎控除を現行の「5000万円プラス法定相続人1人当たり1000万円」から「3000万円プラス法定相続人1人当たり600万円」に引き下げる増税案も明記されました。今後の衆参ねじれ国会での審議は難航も予測されています。
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