不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産を売却した所得への税額は売却時期や特別控除の利用次第で大きく変わるってホント?

専門家がレクチャー

税理士が教える 不動産を売却した所得への税額は売却時期や特別控除の利用次第で大きく変わるってホント?

医療費控除や住宅ローン控除などのために確定申告を行った方も多いと思います。しかし「相続した不動産の取引に伴う確定申告を行ったことがある」という方は、あまりいないのではないでしょうか。一般的に、不動産を売却して譲渡益を得た場合には確定申告が必要になりますが、中には申告の必要がないケース、あるいは事前に知っておくと節税できたはずのケースもあるとのこと。税理士の田中耕司先生に、そうした確定申告における注意点について伺いました。

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税理士が教える 不動産を売却した所得への税額は売却時期や特別控除の利用次第で

医療費控除や住宅ローン控除などのために確定申告を行った方も多いと思います。しかし「相続した不動産の取引に伴う確定申告を行ったことがある」という方は、あまりいないのではないでしょうか。一般的に、不動産を売却して譲渡益を得た場合には確定申告が必要になりますが、中には申告の必要がないケース、あるいは事前に知っておくと節税できたはずのケースもあるとのこと。税理士の田中耕司先生に、そうした確定申告における注意点について伺いました。

田中 耕司 先生

税理士法人日本税務総研

税理士田中 耕司 先生

税理士法人日本税務総研 代表。大阪国税局・国税不服審判所、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)勤務を経て、平成17年より現職。上場企業や中小企業の会計実務、不服審査実務にも通じた資産税の専門家。著書に『相続・贈与・遺贈の税務』(中央経済社)他。

LECTURE1

相続した土地の購入価格が不明! どうすれば確定申告できる?

不動産を売却して譲渡所得を得た場合、確定申告のためにはどのような準備が必要なのでしょうか?

田中先生「当然ですが、まず必要な書類を揃えることです。①売却した不動産の売買契約書および領収書、②仲介手数料や登記費用をはじめ売却に必要となった費用を示した書類、③その不動産を購入した価格がわかる契約書などが主なものです。これらをもとに、不動産を売却した金額(売却価額)から、取得費や譲渡費用などの必要経費を引いた残りが譲渡益、または譲渡損です。そこからさらに生活の本拠を売った場合などは、特別控除の額を引いたものが課税譲渡所得となります」(下図参照)

必要経費に含まれる取得費、譲渡費用とは具体的どんなものを指すのですか?

田中先生「取得費は、その不動産を手に入れるためにかかった費用のことです。購入代金・建築代金以外に、購入時の登録免許税や不動産取得税、契約書の収入印紙代、仲介手数料なども含まれます。ただ、事業用の資産の場合は、登録免許税や不動産取得税は事業所得の経費に落としているので、譲渡所得の経費には使えません。また、建物は、未償却残高(建物購入代金から経過年数に応じた減価償却費を差し引いた金額)が取得費として控除できる金額です。賃貸している建物や自分の商売に使っていた建物は、不動産所得や事業所得の未償却残高を譲渡までの月割償却を考慮して使えばいいのですが、自宅を売った場合など、非事業用資産は旧定額法で計算することになっているので注意が必要です。譲渡費用とは、売るためにかかった費用のことをいいます。売却時の仲介手数料、契約書の収入印紙代、測量費などが該当します。ただ、譲渡所得の計算上考慮できる費用に関する解釈は昭和54年ごろから変わってきています」

どのように解釈が変わってきたのでしょうか?

田中先生「誤解をおそれずにわかりやすくご説明すると、昭和53年以前は、先に申し上げた譲渡所得に関する二つの費用、譲渡費用と取得費ですが、これらの費用は、誰がその資産を保有していても変わらない、同じ値上がり益が算出されるものでなければならない、という解釈を国税庁は採用していたのです」
「譲渡所得とは、納税者の努力とは無関係に生じた資産の値上がり益であるという解釈が、基本にありました。都内の土地が譲渡されたときに、都内に住んでいる人が所有者である場合と、北海道に住んでいる人が所有者である場合では、その値上がり益は同一であるべきだから交通費は譲渡所得の直接の経費に当たらない、とか、自己資金でその土地を買った人と借入金で買った人の値上がり益は同一でなければおかしいから、借入金の利息は(使用を開始するまでの期間に対応する利息以外は)取得費にならない、というような考え方です。譲渡所得というのは資産の保有期間中に生じた値上がり益に対するものであるから、ある意味抽象的に発生している値上がり益だ、という考え方を基本としていたのです」
「ところが、昭和54年6月26日に東京高裁がこれとは異なる考え方を基礎とした判決を出しました。納税者が土地を取得し、全く使用しないまま譲渡した場合に、その土地を取得するための借入金の利息は取得費になるか、が争われた事例です。高裁は、土地を使用しないまま譲渡した場合であっても、取得資金の取得について相当因果関係が認められれば借入金の利息も取得費に含めることが妥当だ、と判示しました。相当因果関係があるかどうかは、租税負担の合理性、衡平性の観点からみて判定するという考え方です。これは、納税者の担税力をより強く意識した判断だといっていいでしょう。この判決などを受け、昭和54年以降、国税庁は解釈を改めました。現在では、譲渡所得の課税対象となる所得は実現した所得であり、より多くの所得を得るためには、納税者(譲渡者)の努力や手腕が必要であり、より多くの所得を得るために寄与したと認められる費用は譲渡所得に対応するものと考えられる、という解釈を取っています」

なんだか、譲渡所得と、商売で不動産を仕入れて販売している人などの事業所得や雑所得と、区別が難しくなっている感じがしますね。

田中先生「そうです。実務的に混乱させるような言い方は控えたいのですが、『土地を売るための交通費は譲渡費用になりますか?』とか『買主と昼食を取ったのですがその昼食代は譲渡費用になりますか?』という質問に、明確に返答することが難しくなっているのです」

ところで、親などから相続した不動産の場合、購入時の契約書まで引き継いでおらず、当時の価格がわからないこともあるのではないでしょうか?

田中先生「取得価額がわからない場合は、概算取得費、売却した金額の5%を購入時の価格と見なして計算することができます。ただ、昭和50年代以降に取得した土地など、取得時期から考えると値上がり益があっても少ない、または明らかに値下がりしているということが推定できるケースがあります。このようなケースでは、概算取得費を使うと不合理な値上がり益が算出されてしまうので、手間を惜しまず実際の取得費を調べることが重要です。ローンで購入した土地は、登記簿謄本を取り寄せ、抵当権設定欄の金額を見れば、自己資金を除いた住宅ローンの金額が分かります。さらに、住宅ローンを返済中とか、完済後10年以内であるとかならば、金融機関に購入した不動産の売買契約書の写しが保存されている可能性があります」
「もっとも、確定申告が必要になるのは、課税譲渡所得がある場合です。不動産はバブル時期から見ると“半値八掛け二割引”になっているといわれます。購入時の価格が不明とはいっても、統計的に明らかに値下がりしているケースなら税務署の調査に任せる方法もあります」

LECTURE2

所有して5年が分かれ目! 売却する時期で税率に倍近くの差が

ちなみに、譲渡所得への税率はどれくらいなのでしょうか?

田中先生「課税譲渡所得にかかる税金は『所得税+住民税』です。不動産を取得した時期からどれくらい経って売却したかによって税率は異なります。売却した年の1月1日時点で5年を超えているか・超えていないかを境として、超えている場合は長期譲渡所得の『所得税15%+住民税5%=20%』、超えていない場合は短期譲渡所得の『所得税30%+住民税9%=39%』が原則です(※)。相続で取得した不動産の場合は、取得した時期は亡くなった方が購入した時、取得価額は被相続人が購入した価額です。相続の時や相続税の評価額ではありません」

※平成25年から平成49年までの各年分については所得税額に2.1%の「復興特別所得税」が課税されます。自宅を売った場合など特定の条件に合致すると特別控除後の譲渡益が6,000万円までは10%、超える部分について15%などの特例が別途あります。

しかし、所有していた期間が少しずれるだけで税率が倍近く違うのは驚きました!

田中先生「そうですね。都内のマンションなどは価格が上昇しているケースもあります。値上がりしているから早く売ろうということで4年と11ヵ月で売ってしまった、あるいは、保有期間5年というのは取得した日から売る日までと錯覚して売ってしまった、というケースもあります。上手に値上がりした不動産をお持ちなら、売買契約を締結する前にベテランの税理士に相談していただきたいと思います」

所有期間について税務署はチェックしているのでしょうか?

田中先生「譲渡所得の申告は、譲渡した年の他の所得(給与、年金、不動産など)と一緒に一つの申告書で行いますが、譲渡所得だけは資産税部門という部署に回付され、譲渡所得の事績書というものが納税者ごとに作成されています。4月中旬までに、税務署の担当者が事績書ごとに申告内容が適正かチェックしています。所有期間がおかしいと判断されたときは、職権で登記簿謄本を取り寄せて所有期間を確認しています。余談ですが、高額譲渡について税務署は『この年にAさんが〇〇〇万円の不動産を譲渡している』とデータベースに登録しているようです。譲渡者が亡くなり、相続税の申告書が提出されると、過去の譲渡内容と相続税に計上されている資産との照合が行われます。国税庁はいろいろな方法で相続税の申告書の内容をチェックしていると考えていいでしょう」

LECTURE3

自宅売却の際の特別控除などが受けられないケースもある?

譲渡益から差し引く特別控除ついて、何か注意点はあるでしょうか?

田中先生「自宅を相続する場合、将来譲渡することが予想される場合は、譲渡所得の特例も意識して遺産分割を行うことが必要です。よくあるのが、夫婦のどちらかが亡くなり、配偶者が相続するケースです。配偶者は一人で自宅に住み続けるのですが、自宅建物だけを配偶者が相続し、敷地は子どもが相続するように遺産分割協議書を作成することがあります。二次相続を考慮して、評価額が時の経過とともに下がる建物は配偶者が相続し、評価が下がりにくい土地は子どもが相続するというような考え方をしているようです。ただ、数年経過後、配偶者が老人ホームに入居するために自宅を譲渡する必要が生じた時が問題です。居住していない子どもが所有している土地については、マイホームを譲渡した場合の3,000万円の特別控除を適用できません。このようなこともあるので、遺産分割は将来生ずる可能性のある税務も十分考慮できるベテランの税理士に相談して行うことをお勧めします」
「この他によくあるのが、実際に地上建物に居住している人が家屋を所有していないケースです。先ほどの例とは逆ですが、土地は地上建物に居住している配偶者名義なのに、建物は他のところに住んでいる長男名義であるようなケースです。居住用の特別控除(3,000万円控除)は、家屋を中心に条文が作られています。実際に値上がり益が生じるのは敷地なのに、家屋と敷地の所有者が同一であり、家屋とともに敷地が譲渡されることが特別控除の適用要件の原則になっているので、この状態のまま売買契約を締結してしまうと3,000万円の特別控除を受ける余地はありません」

なにか対策はありますか。

田中先生「土地を居住している配偶者が所有し、地上建物は居住していない長男名義である場合は、売買契約を行う前に家屋の持ち分を一部でも長男から配偶者(母)に贈与すると、配偶者が特別控除を受けることができるようになります。建物の所有期間は要件ではありません」

よく、住んでいないのに住民票だけ移してあたかも居住しているように装うと特別控除が受けられるのではないか? という質問があるようですが。

田中先生「居住用資産の譲渡所得の特別控除は、家屋の所有者が実際にその家屋に居住していることが条件です。特例の適用を受けるために居住した場合は適用できませんし、住んでもいないのに、住民票をその建物所在地に移して住んでいたように装うと重加算税の対象になることもあり、注意が必要です。逆に、実際には数年前からその建物が生活の本拠なのに何かの理由で住民票を移していない場合は、その理由を詳細に説明し、居住の事実を明らかにする書類を添付して申告すると、特別控除を適用することができます。譲渡所得もそうですが、税金の問題は、売買契約など経済的な取引行為を行う前にベテランの税理士に相談していただくことをお勧めします」

被相続人から土地を相続した兄弟が、お互いの土地の一部を交換したときに所得税を払わなくて済んだ……という話を聞いたことがあるのですが。

田中先生「所得税法に、固定資産の交換特例という条文があります。個人が土地や建物などの固定資産を同種の固定資産と交換するなど一定の要件を具備した場合、譲渡がなかったものとする特例です。宅地と宅地、建物と建物のように同種の固定資産の交換であること、交換譲渡資産は1年以上所有していた固定資産であること、交換で取得した資産を交換前に所有していた資産の用途と同一の用途に供すること、交換資産の時価の差額が高い方の資産の2割を超えないこと、などです。同じような面積の土地を相続したから時価も同程度だろう、と思って交換したら、特例が適用されず時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得が課税されるケースもあります」

やはり、噂話や聞きかじりで思い込むのは怪我の元なのですね。

田中先生「不動産の売買自体は皆さん計画的に進めておられるのですが、売却前に税金のことも含めて検討されることをお勧めします。税理士にはそれぞれの得意分野があり、資産税、相続税や民法等の関係法令を熟知している税理士は少ないといってもいいでしょう。相続や土地売買に詳しい税理士を探して、必ず“売る前に”相談していただくことをお勧めします。売買契約を締結してしまった後では、できることは少ないのです」

(作成日 2017年11月2日)