不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報家の境界、どう決める? 裁判より早い「筆界特定制度」のメリットと利用の注意点

専門家がレクチャー

土地家屋調査士が教える 家の境界、どう決める? 裁判より早い「筆界特定制度」のメリットと利用の注意点

土地の売買や建築の際に行うことの多い「境界確認」の手続きですが、いざ調べてみると、自分が認識していた境界と公法上の境界(筆界)が異なっている場合があるそうです。また、隣接する土地の所有者から境界の再確認を求められることも起こり得る話でしょう。話し合いがスムーズに進まなければ、裁判によって境界を確定させることもありますが、最近では裁判によらない「筆界特定制度」の利用も盛んになっていると聞きます。土地家屋調査士の楢葉先生に、なぜ境界確認が必要になるのか、「筆界特定制度」にはどんな利点があるのかなどを詳しく解説していただきました。

どう決める? 裁判より早い「筆界特定制度」のメリットと利用の注意点

土地の売買や建築の際に行うことの多い「境界確定」の手続きですが、いざ調べてみると、自分が認識していた境界と実際の登記が異なっている場合があるそうです。また、隣接する土地の所有者から境界の再確認を求められることも起こり得る話でしょう。話し合いがスムーズに進まなければ、裁判によって境界を確定させることもありますが、最近では裁判によらない「筆界特定制度」の利用も盛んになっていると聞きます。土地家屋調査士の楢葉先生に、なぜ境界確定が必要になるのか、「筆界特定制度」にはどんな利点があるのかなどを詳しく解説していただきました。

楢葉(ならは) 友行 先生

ならは土地家屋調査士事務所

土地家屋調査士・筆界調査委員
楢葉(ならは) 友行 先生

私の父も土地家屋調査士でしたが、幼いころ、自分の父がどのような仕事をしているのかよくわかりませんでした。土地家屋調査士は、専門的で、知名度もそれほど高くありません。しかし、社会にとって大変に重要な役割を担っています。今度は私が、土地家屋調査士の役割や事例をわかりやすくお伝えし、皆様の不動産管理のお役に立てるよう尽力していく次第です。

LECTURE1

境界には「公法上の境界(筆界)」と「私法上の境界(所有権界)」があり紛争の解決方法もそれぞれ異なる

まず、境界確認が必要になる理由を教えていただけますか。

楢葉先生「所有する土地を売却するときなどに、買主から境界確認を売買の条件として求められることはよくあります。また、土地を分割する際には境界を確認していないと分筆登記が行えません。『土地を売ろうと思って登記を調べたら、父から土地を相続したときに聞いた境界と違っていた』といった場合、あるいは隣地との区切りを示していた塀を壊した際に、土地の境界を示す目印となる境界標の一部が失われてしまった場合などは、改めて境界を確認する必要が出てきます」

「自分たちが思っている境界と公法上の境界(筆界)が違う」といったトラブルは、どうして起こるのでしょうか?

楢葉先生「実は、土地を区切る境界には『筆界』と『所有権界』があり、法務局で登記された公法上の境界を筆界、所有権にもとづく私法上の境界を所有権界と呼んでいます。本来なら両者は一致するはずですが、自分たちが認識していた境界と登記が異なっていたという場合は、筆界と所有権界の不一致が原因のことも多いですね。よくあるのは、土地が一部変形しているなどで使いづらく、お隣の方と相談して区切りを変更して、新たに生け垣や塀を作ったようなケースです。これはお互いがどこまで土地を占有するかという所有権の区切り、つまり所有権界を変えたことになります。所有権界はこうした当事者同士の話し合いや売買、譲渡などで変更できますが、筆界については法務局で登記申請手続きを行う必要があります。しかし、所有権界を変更したままの状況が長く続けば、後から作った生け垣のラインを筆界であると思い込むこともあるのではないでしょうか」

なるほど、所有権界を変えても筆界はそのままというケースがあるのですね。

楢葉先生「そうです。そして、筆界にもとづく境界を地面上に表示するのが境界標です。頭に赤い印をつけた杭が、地面に打ち込まれているのを見たことがあるかもしれませんね」

あれが境界標ですか。でも、それが失われることもあるようですが……。

楢葉先生「工事の際にうっかり引き抜かれたり、撤去されたりすることもあるようですね。そうしたときは改めて境界を確認して、境界標を埋め直すことをおすすめします。特に最近は土地の値段が上がって、少しの境界のずれが評価額の大きな差につながることも増えました。私たち土地家屋調査士はそうした境界に関するご相談に対して、土地を測量し、資料や証言をもとに境界を確認する業務も担当しているのです」

所有権界と筆界との食い違い、境界標の亡失などで境界がはっきりしていないと、隣人とのトラブルも起きそうですね。

楢葉先生「境界がはっきりしないと建て替えや塀の作り替えなども困るでしょうし、売却する際に評価が大きく下がる可能性もありますね。お隣と境界で問題を抱えている方からは、話し合わなくてはいけないが相手の顔も見たくない、どこかで偶然会うかと思うと外出するのも気が滅入るなど、大変悩まれているという声も聞きます」

それでは、境界の問題(境界紛争)を解決するための制度にはどのようなものがあるのでしょうか?

楢葉先生「主なものとしては裁判のほか、裁判以外の方法として「筆界特定制度」やADR(裁判外紛争解決手続)などがあります」

LECTURE2

平成18年に始まった「筆界特定制度」で
境界紛争の解決がよりスムーズに

ADRは土地の問題に限らず裁判以外の解決法として聞いたことはありますが、「筆界特定制度」とは何でしょうか?

楢葉先生「筆界特定制度は、裁判では時間や費用がかかりすぎるなどの課題を解決するため、平成18年に始まった制度です。この制度は裁判所ではなく法務局で行う手続きで、土地の所有者が筆界を特定したいときに申請を行います。主に土地家屋調査士や弁護士などが筆界調査委員となって必要な調査を行い、その意見を踏まえて法務局の筆界特定登記官が筆界を特定するものです。筆界(境界)確定訴訟は数年程度かかることが多いのに対して、筆界特定制度の平均処理期間は、最近の実績では約11ヵ月です」

先生は筆界調査委員もされているそうですが。

楢葉先生「ええ、当事者の方から提出いただく資料だけでなく、調査委員の職権にもとづいて、問題となっている土地に関して法務局や各自治体などに保管されている資料を調べて、現地の測量を行って資料と比較し、必要に応じて当事者から直接話を聞くなどしています。これは非常に地道な作業ですが、境界紛争が少しでも早く解決するようにお手伝いをしたいとの思いで続けています」

制度はどの程度利用されているのでしょうか?

楢葉先生「平成17年まで、筆界(境界)確定訴訟の新受件数は800件前後で推移していましたが、筆界特定制度が始まった平成18年から減少し、平成19年からは400件前後と半減しました。一方で筆界特定制度は開始直後には2,790件、それ以降もおおむね2,500件前後と非常に多く利用されています」

筆界特定制度の件数は、訴訟が減った件数の6倍以上になっていますね。

楢葉先生両者の合計では3,000件前後となりますね。単に訴訟を代替しただけでなく、これまで訴訟はハードルが高いと躊躇されていた方の利用も増えたのでしょう。これは、ずっと火種がくすぶっていた境界紛争が解決に向けて動き出したともいえ、私は非常に良い傾向だと感じています」

ところで、筆界特定制度を利用した場合の費用はどれくらいなのでしょうか。

楢葉先生「費用は申請手数料と手続き費用(測量費用)があり、申請した方が負担します。申請手数料は規定にもとづき、固定資産税台帳に登録された土地の価格から算定されます。手続き費用(測量費用)は土地の広さや測量の難易度でケースバイケース。また法務局への前納が必要となります。土地家屋調査士に筆界特定の申請を委任した場合は、調査士が測量した結果を証拠資料として法務局に提出し、それをもとに筆界特定が行われることがほとんどですから、多くの場合、法務局に納める測量費用が減額されます」

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(出典:裁判所公表資料 裁判の迅速化に係る検証に関する報告書「裁判外での紛争処理の全般的状況」 法務省 登記統計 年報2016「不動産登記 年次表」16-00-7「筆界特定事件の新受,既済及び未済件数(平成19年~28年)
※平成11年から平成18年までの全国の新受件数は統計データがなく、平成18年までの東京地方裁判所(本庁)における新受件数の統計データをもとに推計したもの)

LECTURE3

近隣とのコミュニケーションを絶やさず
まずは境界紛争にならない工夫を

土地の境界には筆界と所有権界があり、そこの紛争の解決手段も複数あることが分かりました。

楢葉先生「裁判は時間も費用もかかり、また当事者間の感情のもつれが大きくなることがほとんどですから、私は境界紛争では裁判をなるべく避けるようお伝えしています。筆界特定制度の利用もこれだけ多いのですから、これからはまず筆界特定制度を使って、それでも解決できない・納得できない場合に筆界(境界)確定訴訟に移るといった流れがスタンダードになっていくと思います」

ところで、筆界特定制度以外には何かいい方法はないのでしょうか?

楢葉先生「非常に根本的な話になりますが、やはり一番いいのはまず、境界紛争にならないこと、そうした火種を抱えないことだと思います。土地の境界標がどこにあるのかを知り、壊れたりなくなったりしていないか、定期的にチェックすることをおすすめします。もし亡失していたら、土地家屋調査士などの専門家に相談して、早く元に戻すことが必要でしょう。さらに、私がこれまでの経験から痛感するのは、ご近所との人間関係が大きく影響するということです。ふだんからお隣の方とのコミュニケーションが良好であれば、境界紛争に発展する以前に解決できることが多いように思います。日頃の挨拶や声かけ、ちょっとした会話や気づかいなどが、境界紛争を招かないための防御策ともいえるでしょう」

(作成日 2017年9月21日)