専門家のアドバイス
大谷郁夫

賃貸経営の法律アドバイス

賃貸経営の法律
アドバイス

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2015年5月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

建物明渡し訴訟の費用

 寒暖の差が大きかった4月上旬でしたが、間もなく5月という時期になって、やっと春らしい日が続いています。もっとも、ここ数日は、春らしいを通り越して汗ばむような気温になっています。最近は、春がだんだんと短くなって、冬からあっという間に夏になっているような気がします。地球温暖化で、日本も温帯から亜熱帯に近づいているのでしょうか。
 さて、今回から連続して、建物賃貸借とお金のお話をしたいと思います。テーマとしては、次の4つを考えています。
 ・建物明渡し訴訟の費用
 ・賃料の増額と減額
 ・更新料と敷金の返還
 ・修繕費用

まずは、建物明渡し訴訟の費用です。

建物明渡し訴訟の費用

 賃料の滞納が始まってから、借主との契約を解除して、借主に出て行ってもらう(これを、「明渡し」と言います。)まで、どれくらいのお金がかかるでしょうか。
 賃料8万円のワンルームマンションを想定すると、少なく見積もっても、次のようなお金がかかります。

 上記の(1)から(5)を合計すると、ざっと69万円ほどになります。
 もちろん、この中には、滞納家賃は含まれていませんので、滞納開始から明渡し完了まで8ケ月間家賃の滞納があったとすると、大家さんには、上記の費用以外に64万円の損失が発生します。

 こんなに費用や損失が発生するわけですから、大家さんとしては、何とかこれらの費用や損失を回収したいところです。
 そこで、まず、上記の費用や損失のうち、法律上、借主が負担しなければならないものをきちんと把握しておく必要があります。

 このように(2)から(4)は、法律上、借主の負担ですから、明け渡しの裁判と強制執行が終わった後に、借主に請求することができます。
 しかし、実際には、家賃もきちんと払えないような借主ですから、「借主に請求することができます。」と言っても、絵に描いた餅に過ぎません。
 そこで、大家さんとしては、こうした費用や滞納家賃を回収するために、きちんとした保証会社や連帯保証人を確保しておくことが必要です。
 連帯保証人というのは、昔から、部屋を借りるときには親や親戚に連帯保証をしてもらうということは行われてきました。私も、今春、就職して一人暮らしを始めた長女のために、長女の住むマンションの連帯保証人となりました。連帯保証人は、借主が大家さんに対して負う支払義務一切を、借主とともに負わなければなりません。
 これに対して、保証会社というのは、借主の依頼を受けて大家さんと保証契約を締結し、本来借主が払うべき滞納家賃や上記の諸費用を、借主に代わって支払ってくれる会社です。最近では、多くの大家さんが、保証会社を利用しています。

 ところで、上記の説明で×となっていた(1)と(5)の費用は、借主の負担とすることはできないでしょうか。
 実は、これらの費用も、契約書で借主の負担と定めれば、借主の負担となる可能性があります。

 特に、(1)については、契約書で借主の負担と定める条項を有効であるとした地方裁判所の判例があります。その判例では、家賃を滞納した場合に、借主は、大家さんに、「催告手数料(通信費、交通費、事務手数料)として1回あたり3,150円を支払う。」と定めた条項を有効としています。これによると、内容証明郵便を出した場合だけでなく、実際に部屋を訪れて催促した場合も、1回について3,150円を借主に請求できることになります。
 (2)の弁護士費用は、これを借主の負担とする条項が有効かどうか意見は分かれると思いますが、家賃を滞納した場合に、滞納家賃の回収、契約の解除及び建物の明け渡し等の法律事務を弁護士に委任した場合に、必要となる弁護士費用は借主の負担とするという条項を、契約書に入れておくとよいでしょう。

 最後に、家賃を滞納して契約解除になった場合には、借主は、大家さんに対して、解除の日から部屋を明け渡すまでの間、賃料相当損害金というお金を払わなければなりません。
 この賃料相当損害金の金額は、契約書に何も書いていなければ、家賃と同額ですが、契約書で定めれば、家賃の2倍の金額を取ることも可能です。このような条項も、裁判所は有効としています(何倍までOKかは、一概には言えません。)。
 契約書に、賃料相当損害金の金額を家賃の2倍の金額と定めておき、きちんとした連帯保証人や保証会社が確保されていれば、家賃の滞納があっても、大家さんは、ほとんど損失を被りません。

 次回は、家賃の総額や増額について、お話しします。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/

平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。