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大谷郁夫

賃貸経営の法律アドバイス

賃貸経営の法律
アドバイス

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2014年8月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

夏は入居者の孤独死が急増!?

入居者が孤独死した場合の大家さんの損害と対応

 梅雨明けして、茹だるような暑さが続いています。この時期になると、入居者の孤独死が心配になります。主に高齢の入居者の方が、熱中症などが原因で、亡くなってしまうのです。
 実は、私の知り合いに孤独死を専門にしている葬儀屋さんがいるのですが、1ヵ月ほど前に会った時、「最近忙しいですか?」と尋ねたところ、「今はまだ梅雨時なので、暇ですが、もうすぐ忙しくなります。」と言っていました。それくらい、夏は孤独死が多いのです。

 そこで、あまり考えたくない話ですが、入居者が孤独死した場合の大家さんの損害や対応について考えてみましょう。

 入居者が孤独死をした場合、亡くなってから発見されるまでに長い時間が経過しすぎると、部屋の中は大変なことになります。
 当然、専門の業者に清掃してもらうことになります。清掃だけでは足りず、壁紙、カーペット、フローリングの取替えなどが必要な場合もあり、かなりの費用がかかります。

 さらに、こうした清掃が終わるまでは、部屋を貸すことができませんし、仮に清掃が終わっても、孤独死があった部屋には、なかなか新しい入居者が見つかりません。このため、相場よりかなり賃料をダウンしなければならなくなります。
 「入居希望者 がいたら、何も言わずに相場どおりの賃料で貸せばいい。」と乱暴なことを言う人もいますが、それはお勧めできません。
 孤独死のご遺体を発見した場合、警察に通報しなければなりませんので、通常は、パトカーや救急車が来て、賃貸物件の周辺は一時的に騒然となります。このため、孤独死があったことは、近所に知られてしまいます。ですから、入居希望者に何も言わずに貸してしまうと、後で発覚してトラブルとなるおそれがあります。
 このように、入居者が孤独死をし、亡くなってから発見されるまでに長い時間が経過した場合は、大家さんは、相当な損害を受けることになります。

 では、これらの損害のうち、入居者の連帯保証人や相続人に請求できるのは、どこまででしょうか。
実は、自殺の場合とは異なり、これらの損害を、入居者の連帯保証人や相続人に請求することはできません。
 そもそも、入居者が退去時に負担しなければならない清掃費や修繕費は、あくまで入居者が、賃貸物件を適切に管理する義務に違反して壊したり汚したりした部分の清掃費や修繕費です。
 しかし、孤独死はあくまで病死ですから、入居者に落ち度はありません。また、亡くなった後に長期間発見されなかったとしても、亡くなった入居者には、何の落ち度もありません。従って、孤独死したことや発見が遅れたことにより部屋が汚れたり壊れたりしても、それは、入居者が賃貸物件を適切に管理しなかったことによるものではありませんので、入居者に清掃費や修繕費を支払う義務はありません。
 同様に、孤独死はあくまで病死ですから、それによって家賃を減額しなければならなくなっても、亡くなった入居者にその損害を請求することはできません。
 そして、入居者の連帯保証人や相続人は、入居者の責任を入居者に代わって引き受ける立場ですから、入居者に請求できないものは、連帯保証人や相続人に請求することはできないのです。

 孤独死の場合、この損害の問題に加えて、もう一つ大家さんの頭を悩ませるのが、孤独死のあった賃貸物件を勝手に片づけてしまってよいかという問題です。
 結論から言えば、答えはNOです。
 賃貸物件内にある亡くなった入居者の遺品を撤去し、部屋を明け渡す権利があるのは、あくまで亡くなった入居者の相続人です。このため、大家さんは、この入居者の相続人と話し合って、賃貸借契約の解除を合意し、さらに、相続人に部屋の片づけと明け渡しをしてもらわなければなりません。もちろん、この明け渡しが終わるまで賃料は発生します。  通常は、孤独死のご遺体を発見するのは親族ですから、相続人を見つけるのはそれほど難しくないでしょう。また、仮に、親族以外の人が発見したとしても、契約時に聞いていた緊急連絡先などに連絡すれば、相続人を見つけることができるでしょう。
 それでも相続人が見つからない場合は、警察に聞いてみるという方法もあります。警察は、遺体を警察署に搬送して検死をし、事件性がないと判断した場合は、遺族にご遺体を引き渡します。ですから、警察に聞けば、亡くなった入居者の親族を教えてくれるでしょう。私が担当した事件でも、検死をした警察が、その日のうちに親族を探し出し、連絡をしたという事案がありました。
 もちろん、親族は見つかったけど、相続人がいないというケースもあります。たとえば、配偶者も子供もいない高齢者で、親はもちろん兄弟も亡くなっているというケースです。この場合、亡くなった兄弟に子供がいれば相続人になりますが、その子供も亡くなっていると、相続人はいないことになります。
 このように相続人がいないときに備えて、相続財産管理人や特別代理人という制度がありますが、ここまでくると、もう大家さんの手には負えませんので、弁護士に相談してください。

 いずれにしても、孤独死は大家さんにとって頭の痛い問題です。  ただ、損害のカバーについては、孤独死を対象とした保険もありますので、検討してみてくだい。
 また、いざという時にすぐ相続人を見つけることができるように、高齢者を入居させる場合は、入居時に緊急連絡先を聞くだけでなく、必ず前の住居の住民票、戸籍などの写しをもらっておいてください。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。