専門家のアドバイス
大谷郁夫

賃貸経営の法律アドバイス

賃貸経営の法律
アドバイス

弁護士
銀座第一法律事務所
大谷 郁夫

2014年7月号

賃貸経営をされている方にお役に立つ法律について、最新判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。

借主からの損害賠償請求

自然災害(ゲリラ豪雨で川が氾濫)により借主が損害を受けた場合の実例

 鬱陶しい雨の降る梅雨となりました。雨というのは、大家さんにとっては、いろいろなトラブルを引き起こしますが、最近は、ゲリラ豪雨と呼ばれるような激しい雨が降り、そのために、ちょっと考えられないような相談も舞い込んできます。

 去年の夏のことですが、私の依頼者の大家さんの所有物件の近くの川が氾濫し、この大家さんの所有物件の地下の駐車場に、大量の泥水が流れ込みました。
 この駐車場には、高額のバイクが何台か駐車してありました。正規に契約をして駐車してあったものですが、駐車場に流れ込んだ泥水にまるまる浸かってしまい、使い物にならなくなってしまいました。

 被害を受けたバイクの持ち主は、なんと大家さんに損害賠償を請求してきたのです。
 驚いた大家さんは、私のところに電話で相談してきました。
 もちろん、川の氾濫ですから自然災害であり、大家さんに落ち度はありません。従って、大家さんが損害賠償を支払う義務はありません。

 もう少し詳しく説明すると、駐車場を貸している大家さんと駐車場の借主との間には、駐車場の賃貸借契約があります。この契約により、大家さんは、駐車場の設備を整備して、借主が安全に車を駐車できるようにする義務を負っています。
 従って、もし大家さんが、大家さんの落ち度でこの義務に違反し、その結果、駐車中の車両を破損させた場合は、駐車場の借主に対して損害賠償責任を負うことになります。
 例えば、建物内の配管に欠陥があって漏水し、この漏水が原因で地下の駐車場内の車が浸水して破損した場合には、大家さんは、駐車場の借主に対して損害賠償責任を負うことになります。
 しかし、川が氾濫して泥水が駐車場に流れ込んできた場合には、自然災害ですから大家さんには落ち度はありません。従って、大家さんは、駐車場の借主に対して損害賠償責任を負いません。

 では、川の氾濫に関連して、もう少し難しい問題を考えてみましょう。
 例えば、大雨で川が氾濫し、貸しているアパートが床上浸水してしまった場合、大家さんには、この建物を修繕し、もう一度住めるようにする義務があるでしょうか。  また、泥水でダメになった借主の家財について、大家さんに賠償義務があるでしょうか。

 まず、修繕義務について考えます。

 賃貸借契約は、物を貸して賃料をもらうことを約束する契約です。  物を貸すというのは、物をきちんと使える状態で提供することが前提ですから、貸主は、貸した物が壊れて使用に支障が生じた場合には、貸した物を修繕しなければなりません(民法606条1項)。これを、貸主の修繕義務といいます。
 従って、建物の賃貸借契約においても、大家さんは、建物自体やその設備が壊れたり、汚れたりしたときは、修繕する義務を負います。

 もっとも、大家さんは、建物自体や設備が壊れたり、汚れたりしたときに、常に修繕義務を負うわけではありません。大家さんが修繕義務を負うのは、次のような条件にあてはまる場合です。
1.大家さんが契約上提供すべき設備であること
2.壊れたり汚れたりした原因が借主にないこと
3.壊れたり汚れたりしたことにより、建物の利用に支障があること
4.修繕が可能であること

 床上浸水の場合は、1.貸している建物自体が、2.川の氾濫で浸水し、3.借主の建物の使用に支障が生じており、4.修繕が可能である、と言えますから、原則として大家さんに修繕義務があります。

 もっとも、上記4.の「修繕が可能である」かどうかは、単に物理的な可能性だけでなく、経済的な可能性も加味してよいものとされています。分かりやすく言えば、物理的には可能でも、あまりにも多額の費用がかかる場合には、経済的には「修繕が可能である」とは言えないということです。

 床上浸水の場合、よくテレビのニュースで見るように、ほとんど天井近くにまで泥水に浸かり、水が引くと建物の中が泥に埋まっていることがあります。ここまでひどいケースでは、泥を掻き出し、乾かし、腐ったり傷んだりしたところを修繕し、クリーニングをしたうえ、もう一度畳や建具を入れる必要があります。もちろん、エアコンや湯沸かし器などのほとんどの設備が取り替えです。このため、ほとんど建て替えるのに等しい多額の費用がかかることがあります。それにもかかわらず、大家さんに修繕しろというのは、大家さんに酷です。このような場合、たとえ物理的に修繕が可能でも、経済的には修繕不可能な状態になっているとして、大家さんの修繕義務を否定されます。

 この場合、賃貸借契約はどうなるのでしょうか。
 通常、賃貸借契約書では、自然災害などの不可抗力によって、建物を使うことができなくなったときは、契約は終了するという条項があります。したがって、このような条項がある場合には、契約自体が終了してしまいます。

 次に、泥水でダメになった借主の家財についてですが、浸水によって借主の家財道具がダメになっても、最初に書いたバイクの例と同じで、自然災害であり大家さんに落ち度はありませんので、大家さんに賠償義務はありません。

 都会の大家さんは、「川の氾濫なんて」と昔は言えましたが、最近は、ゲリラ豪雨のせいで、どこで浸水が起こるか分かりません。
 他人事ではないので、建物の修繕義務の有無や家財の賠償責任の有無について、よく理解しておいてください。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。

大谷 郁夫Ikuo Otani弁護士

銀座第一法律事務所 http://www.ginza-1-lo.jp/
平成3年弁護士登録 東京弁護士会所属
趣味は読書と野球です。週末は、少年野球チームのコーチをしています。
仕事では、依頼者の言葉にきちんと耳を傾けること、依頼者にわかりやすく説明すること、弁護士費用を明確にすること、依頼者に適切に報告することを心がけています。